SOL I.D.
アーニャ、レインメーカーのテープ、このまま海に投げてくれないか?
ジェーンに、やろう。私たちにはもう必要ないからな。
……ん、そうだな。 じゃあ、もう一回だけ。
―――――
エメリア。
お前に、私は何もあげていない。
そして、お前はここまでやってきた。
それほどの強さを持つお前に、私はこれ以上、何もやれることはない。
だから、私の気持ちを言う。正直に。
それが私に出来る精一杯だ。
聞いてくれ。でも気に入らなかったら、ここで止めて、このテープは捨ててくれ。
このテープを聞いているということは、私は……
いや、私の目論見が成功したということだろう。
ジェーンは、今頃、大変な状態だろうな。
世界を敵に回して戦うために、自らに痛みを与え続け、そして、私がジェーンに向けて痛みを放つ。
普通に考えれば、立ち上がることすらできないはずだ。
そこまでして、ジェーンは何をしようというのか。
何のために戦うのか。
お前なら、お前たちなら分かるんじゃないか?
それは、『自分で茨の道に飛び込んだから』だろう?
あの地獄の日々で、ジェーンとエメリアを見て感じ取った。
息をするだけで苦しく、朝起きた時に、生きていることに絶望する。
それでも、なお、死を選ばずに生きている。
一体その力は何なのか?
目に見えず、触ることも出来ない。しかし、絶対に、それはある。
自分のその力を知ってしまえば、もう後戻りは無い。
その力と己を信じて、ひたすら進むのみ。
そうなった者は、誰にも止められない。
同じ力を持つ者が、ぶつかっていくしかないんだ。
エメリアには、もう私がしてやれることは無い。
そもそも、私が誰かに何かをしてやれることなんか無かったはずなんだ。
だから、私の想いを語る。
ジェーンとヨルムンガンドは『空の境界』だ。
あれは、お前が越えていく境界線だ。
あれを越えた先に、『空』があるはずだ。
お前たちが見た、大きな力の手掛かりさ。
だから、行ってくれ。たのむ。
……何を言っているんだろうな、私は……
いろいろあるが、悟り、涅槃、なんて表される "Nirvana" というものがある。
"Nirvana" とは、サンスクリット語の "Nirva" の自動詞の形であるらしい。
燃えているものが消える、吹き消える、ということだ、それも自分の力でな。
それに至る強固な意志をヴァジュラと呼ぶ。
それは、雷の神が持つ武器でもある。
……雨が雷を語るとは、なかなかおもしろいな。
ブラッディ・サンという形で表れてしまった、ジェーンの心の拠り所。
でも、その名前にも何かの願いがあったのかもしれない。
血の通った太陽。それを目指し、それを超えて行けということなのか。
お前たちは作られた怪物であっても、それぞれが太陽なんだ。
そして、お前たちが歩いてきた道、そしてこの瞬間。
それは、お前たちの輝きを示す自己証明。
"SOL I.D." といったところか。
自分勝手なのは分かってるつもりだ。でも、全部お前たちが見せてくれた。
あの監獄での苦痛、そして外に出てからの苦悩。
それでも生き延び、歩き続け、走り続けた。
そうやっているうちに、余計なものが落ちていって、自分だけの大切なものが残る。
ありがとう。私の子供たち。
持ち過ぎたら、無くしてみるんだ。
残ったものを、大事にするんだ。
そして、みんな、歌ってくれ。
(終わり)
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