第6話「終結そして!!」
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炸裂した球電は、ラリオスの首から上を超超高熱で焼き尽くし、周囲の地面ごと蒸発させた。爆風の収まったあとには何もなかった。
球状の空白。
断面についた焼け焦げの色と、鼻をつくようなイオン臭だけが、わずかに名残りをとどめていた。
石の体は力なく地面に倒れ伏したまま、ぴくりとも動かない。
「やべっ……やりすぎたか……!?」
さすがに青くなった。
必死だったから、加減も何もなく思いきりやっちまった。
多元世界のとはいえ女の子で、さらに言うなら神様だよなこの人? 法的にどうなの? 最悪処刑まであるんじゃないの?
「大丈夫じゃ、安心せい」
いつの間にか分離していたシロが、俺の隣で爆風の余韻に髪をなびかせていた。
「あの程度なら治療が効く」
「効くんだ!?」
すげえな多元世界。
治療というか作り直しが必要ってレベルだと思うんだけど……。
「──きょ、きょ、きょ……驚異の大技炸裂ー! シロ選手の大魔法がラリオス選手の首から上を消滅させたー! タフネスを誇るラリオス選手でも、これはもうさすがに無理でしょう! 青コーナー、シロ選手の完・全・勝・利です!」
ゼッカ
背後で割れんばかりの歓声や拍手喝采が聞こえるのは、マイクのスイッチを切り替えたからだろう。スタジオというかスタジアムというか、とにかくたくさん観客がいるところに繋がったわけだ。
当たり前だけど、今の俺たちの活躍は、多元世界中に届いてて、いろんな人に見られてて……。
「……そう考えてみると、感無量だよな」
ドーム内に高らかなファンファーレが鳴り響く。
色とりどりの紙吹雪が舞い落ちる。
「──ひぐ……うぐ……っ」
シロは唐突に膝をついた。
「……お、おいシロ?」
「うぐ……ひぐ……うええ~っ」
「シロ……おい、大丈夫か? どこか痛めたのか?」
心配して顔を覗き込むと、シロは涙でぐしゃぐしゃの顔でこちらを見た。
「やっと勝てた~。やったんじゃよ~。嬉しいんじゃよ~」
たまりかねたように抱き付いてきた。俺の首にかじりつくようにしてきた。
「……っ」
温かい熱の塊を感じた。微かな汗の香りが鼻先をくすぐった。
「ぐず……っ。優……秀な、姉巫女っ……様たちにも無理だっだがら~。落ちこぼれの貴様なんがにづどまるがっで~! みんなが~!」
わんわんと、堰を切ったようにシロは泣く。
「そっか……頑張ったんだな……」
俺はシロのいたいけな体を抱きしめた。
いつから当代になったのかとか、歴代の姉巫女たちとの関係性はどうなのかとか、いろいろと疑問は尽きなかった。
だけど今この場で聞くことでもないだろうし、いずれにしてもシロはシロなりに、姫巫女としての立場でいろいろあったのだろう。この年齢で、この体で、支えてきたものがあったのだろう。
「あじがどう~。あじがどう~。タスク~」
幼子のように感謝を告げてくるシロの姿を見て、胸の中のどこかがうずいた。
「気にすんなシロ。むしろ感謝してるのは俺のほうなんだからさ」
「うええ~?」
シロは顔を離し、不思議そうな目で俺を見る。
「言っただろ? ずっとこういうのを夢見てたんだって。こんな冒険がしたかったんだって。いつまでもガキみたいな夢見てんじゃねえって友達連中にさんざんバカにされながらさ。ご近所の人からも白い目で見られながらさ。──でも、俺はずっと待ってたんだ。そしてようやくこの日が来たんだ。おまえに会えたんだ。だからシロ、本当に礼を言うのはさ。こっちのほうなんだぜ?」
「……っ!?」
シロは息を呑んだ。白い肌を紅潮させ、口をもごもごと波打つように動かした。
「ありがとう、シロ。俺を選んでくれて」
「……うううううううっ!?」
シロは動揺したように俺を突き放した。
「え? なに? どうした? シロ」
「なん……なん……なん、なんでもないんじゃよ! ……このバカ! バカタスク!」
シロは俺に背を向け、ぎゅっと胸を抑えている。
泣いたことの照れ隠し……みたいなもんだろうか?
「まあしかし……けっこう派手にやらかしたよな……俺たち」
立ち上がって周囲を見渡した。ぽりぽりと頭をかいた。
ほとんどが倒壊し、がれきの山と化した神殿街……。
復旧とか復興とか、どれぐらいの費用がかかるんだろうと不安になっていると、ラリオスの体の周囲に無数の小人がたかっているのが見えた。
「ん……なんだありゃ?」
俺は目をすがめた。
身長50センチくらいのロボットだった。円筒形の胴体に、丸まっちい頭が載っている。脚部はキャタピラ、手先は工業用アーム。口は無く、目みたいなスリットが一本入っているだけ。
それがわらわらとラリオスの体にまとわりついている。「クー、クルクルクル?」と不思議な音を発しながらで騒いでる。
「現地住民……って感じでもないしな……」
石造りの世界とロボットでは、あまりにイメージが違いすぎる。
「……こほん、あれはな。
まだ少し赤い顔のままで、シロが咳払いしながら隣に立った。
「機械世界マドロアの住人でな。『嫁Tueee.net』の裏方さんじゃ。物でも人でも、とにかくなんでも治してしまう。ラリオスの怪我も治してくれるじゃろう」
「さっき言ってたやつか。……つうか、あれが治せるのがすげえよな。怪我ってレベルじゃ……。もう首とかないんだけど……」
「なんだそんなもの」
シロは事もなげに笑った。
「聞くところによるとな。死んでさえいなければ大概のものは治るらしいぞ? 内部的にはどうなってるか知らんが」
「まあ、もともと石像だしな……」
内部的にはってのが怖いけど。
「ちなみに死んでいても治せる者たちもおるぞ? 死霊世界ネクロアの技なんじゃが……」
「ダメだそれ! 全っ然治せてねえよ! 漏れなくゾンビとかにされるやつじゃねえか! 名前からして禍々しすぎるっての!」
「これから先、何が起こっても大丈夫じゃからな?」
「まったく大丈夫に聞こえねえよ! なんで事前にその話したよ! その『安心じゃろ?』的なウインクを今すぐやめろ!」
ひひ、と笑って頭の後ろで手を組むシロの話の、どこからどこまでが冗談だったのかはわからない。
わかっているのは、世の中には俺の思ってるよりももっとずっとたくさんの世界があるということだ。
わかっているのは、これから俺たちは、否が応でもそれらに立ち向かわなければならないということだ。
いろいろとがばがばで、いろいろと崖っぷちで、かなり不安はあるけれど──。
無限の世界のことを想像しながらシロと共に風に吹かれるこの瞬間は、最高だな、なんて思うのだ。
~~~布団の中~~~
「ほうほう……ふたりで仲良く風に吹かれてなあ……?」
「ずいぶんと爽やかな出会い方をしたみたいでなによりだなおいぃ?」
「
「おまえらが急かすから、しょうがなく一から回想してんだろうがあ!」
「誰も真っ向からノロケろとは言ってないだろうが。なあ、旦那様?」
ポニーテールの剣道少女、御子神はにっこり。
「ノロケたつもりはねえんだよ! 純粋に……! 順番に組み立てた結果がだなあ!」
「……いいから早くしろ。もう片方の肘も壊されたくなければな」
ツンデレメガネっ娘、妙子が低い声で脅しつけてくる。
「最初から片方壊すつもりで話すのはやめようか!? だいたいこれって傷害だろ!? 出るとこ出たらどうなるかわかって言って──」
「……おまえこそ、この状況をわかって言ってんのか?」
「はいはいすいませんでしたあ!」
男の立場の弱さを再認識しながら、俺は回想を続けた。
「んー……、その次は、妙子との話だよな……」
「──待て、タスク」
いきなり口を手で塞がれた。
「
「もがー、もがっ? (え? なんでっ?)」
「なんでとかじゃない。飛ばしていいって言ってんだ。あたしが許すと言ってんだ」
妙子が焦れたように繰り返す。
「………………小山よ」
御子神が低い声で割り込む。
「どういうことだ? なぜ途中で止めた?」
「……」
妙子は無言でそっぽを向いた。
「貴様は言ったはずだなあ? 天地神明に誓って、やましいことは何もなかったと。抜け駆けなしだと。だから我らはふたり、仲間なのだと。敵の敵は味方だから、自分は味方なのだと」
「なあ、小山?」
御子神の追求に耐えきれなくなったのか、妙子は渋々、といった様子で口を割った。
「……騙されるほうがバカなんだよ」
「貴っ様ぁああああああ!?」
妙と御子神の即席の同盟関係が崩壊した瞬間だった。
……まあ、だからといって解放されるわけじゃないんだけども。
ふたりがかりで取り押さえられたまま、俺はため息をついた。
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