第2話 空 (小郡空)

 目覚まし時計独特の電子音がぐわんぐわん、と耳の中を駆け巡る。小郡空(こおりそら)はたまらずそれのタッチパネルをひったたいた。むにゃむにゃとむにゃりながら時計をみやる。午後2時24分。いくら祝日とはいえ少し寝すぎたかもしれない。


 んっと伸びをすると体ががたぴし音をたてる。窓に目を向けるとそこには雲一つないすがすがしいくらいの快晴がひろがっていた。


 窓をがらがらとスライドして外の空気をめいいっぱい取り込む。が、取り込んだのは空気だけではなかったらしく、割れんばかりの騒音が耳に飛び込んできた。耳を押さえながら恐る恐る下をのぞくとロボットがえっさかほいさ土をほっていた。そこに人の姿はない。


 この景色を見るたびに億劫おっくうな気分になるのはきっと私だけではない、と空は思う。なんだか作業効率とかよりも、もっと大切な何かを忘れているような、そんな気がしてならないのだ。


 空は考えるのをやめて机に座り通学かばんをひっぱり出した。そしてノートを2冊机に並べる。1冊には自分の名前、もう一冊には、彼の名前。


 彼。三国解斗。向かいの家に住んでる中学からの友達で、何の縁か毎年同じクラスだった。遊ぶのも、学校へ行くのも、勉強するのも、夏祭りに行くのも、なんでもいっしょだった。彼がどう思っていたかは知らないけれど、私は、小郡空は、彼のことが好きだった。大好きだった。


 でも。


 いつからか、彼は変わった。変わってしまった。だんだんと学校に来なくなりいつも何かを抱え込んでるような顔をするようになった。


 それでも空は解斗のことが好きだった。だから名前さえ書けば受かると評判の、彼と同じ地元の公立高校を受験し、彼がいつでも学校の来れるようにと自分のノートと別に彼のためにノートをつくっている。丁度今からそれを届けに行くのだ。いつもチャイムを鳴らしても彼は恥ずかしがり屋さんだからお母さんしか出てこない。今日こそは、会いたいな。


 空はノートを抱いて外へと飛び出した。3秒後に騒音に耐え切れず戻って来たけど。

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