足元にライト照らして
平野真咲
足元にライト照らして 1
講義室1並びに多目的室の整理して元部室だった多目的室が使えなくなったけれど、、講義室1を晴れて活動場所として使えるようになった。それにきちんと鍵のついた金庫を資料保管用に貸してくれることになった。ちなみに講義室1というのは講義室が4つあるのでそれぞれの講義室に番号を付けたらしい。研究部が部として認められる機会となった生徒総会の資料を作り、研究部新聞も作った。今回は今年の一年生の入学式の様子と各部活動からのコメントが主な内容だったので、各部の代表者に一言お願いするのに東奔西走した。各学年宿泊合宿や修学旅行もあったのでそれについてもまとめておかなければならない。なお、ごくたまに携帯の持ち込みを許可するよう計らってだとかテストの山を当ててほしいという生徒がいるようなのでそれは無視していいらしい。
今は研究部新聞を発行し終わって少し暇になった時期である。他の部は夏の大会やコンクールのため汗を流して部活動に打ち込んでいる生徒がほとんどを占めるはずなのだが一方の研究部は。
「それが久葉中にもあるんだって! ちょっと意外」
「そうらしいね。俺、父さんから一言も聞いたことないから最初は驚いたよ」
俺、
「久葉中に何があるって?」
同じく研究部員1年の
「来たね副部長!」
実際に篤志は研究部の副部長ということになっている。研究部が忙しかったのも全部で部員が5人とかなり少ない部員数であることにも関係している。
「七不思議だよ、七不思議! ほら、よくあるだろ。夜になると二宮金次郎の像が歩き出すとか、理科室の骸骨が歩き出すとか、あとトイレの花子さん」
篤志はそれを聞くと、ため息をついた。
「でも、そんなに歴史の浅い七不思議ってあるのか?」
「それなんだよな」
俺はため息をつく。実は父さんは3年前まで久葉中の先生だったけれど、今はとある事情で姿を消している。つい最近研究部でこの理由について知ることができた。でも、よく考えてみると、父さんが学校を去ってから3年の間に七不思議ができているということだ。知らなかった、とかわざわざ教えるまでもないことだった、という可能性もあるけれど。
そんなこんなしているうちに講義室の後ろ側の扉を開けて人が入ってきた。
「あ、来た来た。
澄香が手招きをする。同じく1年部員の
「あんたも座ったらどう? 邪魔よ」
篤志はムッとしながら俺の隣の席に座る。自然と4人で話をするにはちょうどいい席順になった。
「美緒ちゃんは聞いた? 久葉中の七不思議」
「あるということしか」
「私も2つしか知らなかったんだけどね」
澄香は終始ニコニコしながらしゃべるのに対し牧羽さんはそっけない態度をとる。澄香は話を始めた。
「久葉中の七不思議その1。
毎晩、用務員さんが戸締りの確認も兼ねて一人で学校を見回りしているんだって。
で、ある日。いつものように3棟から見回りを始めた用務員さんは、被服室、調理室、パソコン室、理科室と上から見回りをしていったのね。そして音楽室についた。その当時から人気のない音楽室からピアノの音がするっている噂があったらしいのだけれど、用務員さんはでたらめだと信じていた。ところが誰もいないはずの音楽室からはピアノの音が聞こえる。何事かと思ってドアを開けたら、なんと女の人が椅子に座っていてピアノを弾いていたらしいのよ! かなり髪を乱していて、しかも血走った眼でこっちを睨んできたんだって!
その用務員さん、他の教室の見回りを忘れて職員室に飛び込んできたそう。残っていた職員全員で音楽室を覗いてみても誰もいなかったんだって」
「んー、結構定番ものね。今もそういうことはあるのかしら?」
牧羽さんがこう聞くと、元気が「吹奏楽部の話では下校時刻になると音楽室と音楽準備室は鍵を閉めちゃうらしいし、今は1人で見回ることは減ったらしいよ」と言う。
「それ女が陰に隠れていたとかじゃなくて?」
「髪を乱して血走った眼をした女が? 仮に人間だったとしてそんなことが思い浮かぶか?」
仮に、と彼は付け加えたが、人間でないわけなどない。しかし、篤志の説もあながち分からなくはない。そんな状況下でピアノを弾いている人間の気が知れないからだ。篤志は話題を変える。
「2つあると言ったよな? もう1つは?」
澄香は「そうそう」と話を始めた。
「久葉中の七不思議その2。
これは放送委員の先輩たちから聞いたんだけれどね、久葉中の放送室は霊に憑りつかれているらしいの。ある日の給食の時間、とある生徒が怪談のCDを流していたら、ザー、ザーっていう雑音が聞こえたと思うと、急に大きな音がして、男の人の声で『やめろ!』って聞こえたっきりスタジオの音がプッツリ切れちゃったんだって。その時の放送室はパニック状態で、何が起きたのかも分からなかったんだって。今はプレーヤーもちゃんと動くし、特に異常はないらしいんだけどね。
なんでもそのCDが呪われたCDだったらしく、その放送後にはCDがどこにも見当たらなかったんだって」
確か澄香は放送委員である。時々給食や掃除のときにかかる放送では澄香が話しているのを聞く。
「それって放送委員だけに知れ渡っているものじゃなくて?」
牧羽さんが聞くと、澄香は「私に教えてくれた先輩は、放送委員をやったことがない人から聞いたって言っていたよ」と言う。
「俺たち保健委員の間には七不思議なんて聞かないな」
俺が言うと、篤志はそうだな、と興味なさそうに相槌を打った。俺も篤志も保健委員だ。そういえば保健室の方がそういう不穏な話がありそうものだが、あったらあったで嫌だ。なくてよかった。
「図書委員会もないわね」
図書委員の牧羽さんが言う。でもそんな話をしていたら学校司書の
後もう1つは俺が聞いた話なので俺から話す。
「久葉中の七不思議その3。
ある生徒が夜、自分の教室に忘れ物を取りに行った時のこと。職員室に行っても明かりはついておらず、仕方なく1人で教室に行ったらしい。で、忘れ物を取ってさあ帰ろうとしたその時。ぼんやりと光が見えたから廊下の隅の机を見てみると、なんと机が振動していたんだってさ! いたずらかなと思って本当に帰ろうとして廊下に出ると、自分が来た方向から一瞬だけ光が見えたらしいぜ! その光った一瞬だけ人影が見えたんだけれども暗くて誰だか分からないし、そのまま隣の教室に入って行ったらしい。その人は怖くてとにかく逃げ出したから何もなかったみたいだけれどな、その振動した席の人は不登校だったんだって。だからその人の呪いなんじゃないか、とも言われているらしいよ。他の説では――」
「まさか宇宙人とか言うんじゃないだろうね?」
篤志が言うと、「そんなことあるわけないじゃない」と牧羽さんが言った。その目は明らかに「バカじゃないの?」というような軽蔑の意が込められている。多分宇宙人説は九割九分冗談だろう。
「そもそもそいつは何しに来たのよ」
牧羽さんがむすっとして聞く。澄香は「分からないな……」と首を傾げた。
「でも、七不思議って原因なんて簡単に突き止められるのよね」
牧羽さんが言った。
「どういうことだ?」
「
篤志も「そうだろうな」と言った。
「だから研究部としてその謎を解き明かしてもいいんじゃないかしら?」
「賛成! やろう!」
俺は手を挙げる。
「楽しそう」
澄香はニコニコしている。
「まさか、本気じゃないだろうな?」
篤志が信じられない、と言った顔をしている。
「いいじゃない、そのくらい。やることもないんだから」
やることがないのは確かかもしれないが、そういう問題ではない。
「あのなあ、オカルト研究部じゃないんだぞ」
「一応研究部だけれど……」
篤志のたしなめも澄香のつぶやきでひっくり返された。篤志が「どうして研究部などという団体名なんだ。ボランティア部とかでよかったじゃないか」とつぶやいている。
「ああ、こんな時に
そういえば先輩はどうした?」
篤志が言っているのは、残りの研究部部員であり唯一の2年生の部員、さらに言えば研究部部長、
「私が来た時に田村先生が来て、高瀬先輩は今日は休みだって伝えに来てくれたよ」
澄香が言った。篤志が「参ったな。よく休むもんな」と言いながら机に顔を突っ伏した。篤志と冬樹先輩は小学校の時から縁があるようだけれど、学校を休むのはその頃からなのだろうか。実際欠席も多いようだ。
「ということで活動内容は決まったし、さっそく準備するか!」
「まずは残留許可を取らなければならないわね」
そう言って牧羽さんがこちらを見る。残留許可、つまり下校時刻以降も居残りを認めるものである。
「元気、今からじゃダメなの?」
「澄香、七不思議1と3は夜起きているんだよ。だから少なくとも日没後も調査しないと分からないよ」
「でも、そんなことで残留許可は下りるのか?」
「行ってみなくちゃ分からないよ」
結局篤志をうまく丸め込んで僕たちは4人分の残留許可をもらいに行った。残留許可は前日までに出さなければならないという規則があるらしい。そのため僕たちは残留許可をもらいに行った翌日に午後7時までという条件付きではあるが、下校時刻後の居残りが認められることとなった。つまり、俺たち1年生にもなんと残留許可は下りたのである。
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