第12話 元泣き虫VS騎士

「リィン、答えて。あの騎士の人となんかあったんでしょ」


わかってるなら聞かないでよ、と思いつつもう半分やけになっていて

「そうだよ!ロイと口喧嘩になって逃げてきてたの!私が⋯⋯私がどんな思いでいるかも知らないでロイがいつもの無神経発動させるから」

そこまで言ってからハッとする。


というのも、トウヤの後ろにこちらに駆けてくるロイの姿をみつけたから。


「潰す」


「え?」


トウヤの尋常じゃない殺気に危機感を覚える。


「あっ、でも、今は怒ってないよ!今思うとさロイの言うことは正論だし仕方ないことだって思う。それにね私達日常的にケンカしてるから特例じゃないっていうか」


ロイが近づいてくればくるほど焦って言葉を付け足していく。


けれどトウヤの表情が変わることは無い。


「リィン!」


このタイミングで⋯⋯


「さっきは悪かった。お前の境遇とか状況とかちゃんと考えられてなかった」

そういって思いっきり頭をさげるロイに苦笑する。


「ロイくんのおかげで頭冷えたし全然大丈夫!だから、ね、仲直り」


そういってロイの元へ駆けてくと無理やり手を握って上下にブンブンと振る。


「ロイ⋯⋯さん」


「ん?なんだ?」


殺気を帯びたトウヤの目がロイをまっすぐに見据える。


やっぱりトウヤおかしいよ。


トウヤは心優しいちょっとやそっとのことじゃ怒らない心の広い子なのに⋯⋯。


「なっ、なんだこれ!」


その悲鳴にロイを見やれば、ロイの足首に植物が巻きついていた。


「なにこれ⋯⋯トウヤがやったの?」

そういってトウヤを見やるがトウヤの目は光を宿しておらず、その瞳には私など映ってもいないようだ。


「てめえ、何のつもりだ」


ロイの言葉にトウヤはひどく暗く冷たい瞳で

「リィンを傷つけた君にはそれ相応の罰が必要だろ」

そういうとトウヤは迷うことなく腕を動かしていく。縦に、横に、斜めに。

やがてトウヤの手が通った軌跡が青白い光を放ちはじめる。


周囲の一般の人々はこの異様な空気に言葉も発せずに立ち尽くしたり野次馬のように集まりヒソヒソと話をしたりしている。


「⋯⋯いけ」


その瞬間トウヤが描いた軌跡から強い衝撃と光が放たれて⋯⋯。


反射的にロイの前に飛びだしたものの目をぎゅっとつむることしかできず、衝撃がやってくるのを待つ。


しかし光が消えても一向に痛みはこない。


「⋯⋯あれ?平気だ⋯⋯」


「お前⋯⋯」


ロイのつぶやきに背後を振り返る。


「ロイが何かしてくれたの?」


「なわけねえよ。お前の目の前に魔法陣がで

て、それであいつが放った魔法を全部吸収してた」


「魔法陣が?⋯⋯それって無意識のうちでも魔法が成功したってことだよね」


「まあ、そうなるんじゃないか」


意識してだせたわけじゃないけど、魔法を発動させられたのがすごく嬉しい。


「リィン、なんで⋯⋯」

呆然とした様子でそういうトウヤに苦笑する。


「だって、今のはトウヤが間違ってると思ったから」

そういってから言葉を続けようとすると辺りを異様なくらいの冷気が漂いはじめ、人々のざわつきが増す。


「この気配⋯⋯!」


思わず身構えた私の目の前に立つロイ。


足に巻きついていた植物はすべて切り落としたらしくロイがいた場所にはその残骸が残っている。


剣の柄に手をかけるロイ。


「?な、なに?」

そういって戸惑う涙目のトウヤはいつも通りのトウヤという感じだ。

どうやら全部が全部変わったわけではないらしい。


「トウヤ、こっち」

そういって手招きすると「う、うん!」といってこちらにタタタッと小走りで駆けてくる。


「いやあ〜、瞬間移動ってのはすごいもんですね〜。こうやって獲物を逃がさずに捕らえられるんですから」


「⋯⋯やっぱり、あなただったのね」


人々が自粛的にあけた道から姿を現したその人は変わらない、見慣れない冷たい表情をしている。


「ナナミ⋯⋯」


ナナミの横には金髪を二つしばりをした明るいけれど殺気を常に漂わせている子。


「どうしてここに?」


「お父上からの伝言を届けにきたの。あと、一応確認だけれど、あなたが先程の防衛の魔法陣をひいたのよね?」


「え⋯⋯ああ、うん」


自分では実感のないことなので答える際少し間があく。


「そう。なら、問題ないわ。三美響秋ソウネルブの舞踏会、我らイテイルも例年通り参加します」


「え⋯⋯いきなりどうして?」


「お父上はあなたに興味があるそうです。もちろん、あなたも舞踏会には参加するのでしょう?」


「まあ⋯⋯」


「ですから、イテイルも参加致します。では」

それだけいうと颯爽と去っていくナナミ。


「ロイくんもバイバーイ!残念ながらエミリは休日でいないけど」

そういうと去っていくかと思われた女の子だけど突如として視界から消える。さっき言ってた瞬間移動だろうか?だけどそれって魔法だよね?


キィンッ


私が辺りをキョロキョロしていると唐突にロイの目の前上空から降って現れた女の子の双剣とロイが瞬時に抜いた剣が激しくぶつかり合う。


ロイの肩越しにみえる女の子の目は感情なんて一切宿っていない。そこに宿っているのはたった一つ、人を殺したいという欲求が体現した殺気のみだった。


恐ろしくて声も出せずにいると、

「ま、私ならいつでもお相手してあげるからさ」

冷たい瞳でまっすぐにロイを見据えてそういう。


「キキ」


ナナミのその一言でキキと呼ばれたその女の子はスッと双剣を鞘に戻していつものおちゃらけた雰囲気に戻る。


「なーんちって。ほんじゃあ、まあ、また会おうね〜ロイくん。」

そういうと慌ててナナミを追いかけて走っていく。


「さっきの⋯⋯ナナミ⋯⋯だよね?」


呆然とそういうトウヤ。


そうだよね。トウヤは冷たい瞳をしたナナミをまだ知らないんだ。


「私はこっちにきて、三日寝込むくらいですんだんだけど、皆は何かしら影響があるみたいなの。それで、ナナミは⋯⋯」


その先を言葉にするのはなんだか悲しくて口ごもっていると

「そうなんだ⋯⋯」

といって何かを考え込むような仕草をする。


「トウヤは自分で何か変わったと思うとこある?」


「うーん⋯⋯。前よりも気持ちが強くなっ気はするんだ。だけど気分が悪⋯⋯」


そこまで言うと倒れ込むトウヤ。慌ててトウヤの横に座り込む。


「大丈夫?」


「うん⋯⋯」


「とりあえずそいつ連れて帰ろうぜ」


「そうだね。トウヤ、立てそう?」


「仕方ねえから俺が運んでやるよ」


トウヤが口をひらこうとするとロイがそんなことを言い出す。


「ほら、乗れ」

そういってトウヤの前に背中を向けてかがみ込むロイ。

先程までガンつけていた相手が自分をおぶってくれると言い出したことに戸惑っている様子のトウヤは

「えっ⋯⋯あの⋯⋯」

と差し出そうとした手を空をさまよわせている。


「いいから」


ほぼ無理やりトウヤをおぶると険しい顔つきでこちらを見るロイ。


「行くぞ」


「あ、はい⋯⋯」





「お待ちしておりました、リィン様。お客人様もご無事のようで何よりです」


城の西側にとめてあった馬車の元へ行くと従者さんが駆け寄ってくる。


「うん。心配かけてごめんね。でも、外交は成功したよ」


「あれを成功と言えるならな⋯⋯」


「うるさい。さ、はやく帰ろ」

そういって馬車に乗り込もうとすると、私の前にスッと進み出て戸をあけてくれる従者さん。


「イケメン⋯⋯」


思わず出てしまった言葉に従者さんは苦笑している。


「あの、どうぞ?⋯⋯」


「は、はい!」

そういって私は慌てて馬車に乗り込んだ。





「にしてもイケメンだよね、さっきの人!スッて、スッて開けたよ!」


「んー」


「私が乗ろうとした瞬間にサッと来てスッと⋯⋯」

うっとりとした口調でそういうとムスッとしながら

「別に俺だってそいつおぶってなかったら開けてやったし」

というロイくん。


「んん?ロイくん、それは分かりづらいだけで嫉妬なのかな?ふふ」


「ふふ、じゃねえよ、気持ちわりい。ああー、ほんとお前と話してると疲れるわ。そいつに話しかけてろよ」


そういってロイが顎で指すのは私の隣でスヤスヤと寝息を立てているトウヤ。


「はあっ!?寝てる人に話しかけるなんて頭おかしいでしょ」


「お前頭おかしいし、似合いだろ〜」

そういってめんどくさそうにヒラヒラと手を振るロイにイライラしながら押し黙る。


絶対後から仕返しとしてサァヤと話してる瞬間に魔法で呼び出してやる!そう心に誓うと疲れがドッときて私は眠り込んでいた⋯⋯。

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