7th LIVE 執行!公開処刑ライブ!
第46話 決戦の地、イギリス(The Ale‶KISS″thunder)
赤道の長い
謎の孤島〝サイケデリカ〟での
奈緒たち五人を乗せたクルーザー『エラザベス・豪』は、アジア~ヨーロッパ間の長い航路を乗り越え、ヨーロッパ大陸の北西部に位置するイギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)の代表的国家であるイングランドの首都〝ロンドン〟の港へと無事に辿り着いていた。
途中、春夏秋冬や東西南北の概念が何度も悲鳴を上げたが、結果的に言うと季節は冬である。
総括しよう。
ロックバンド『デスペラードン・キホーテ』は、雪の降るロンドンの街へと上陸を果たした!
☆☆☆☆☆
「着いたぞ、降りろ」
到着を告げるプロデューサーのオヤジ。
日本~イギリス間――約10.000kmの航路を攻略した男の第一声である。
身だしなみを整える暇もないほど常に運転を強いられる日々が続いたため、その髪は肩下まで伸びきり、
(マジで疲れた……)
「ここが、イギリス……!」
ギターを肩に担ぎ、その地に足を着ける奈緒。
幼い頃からの憧れの土地で、自慢の金髪ミディアムを風になびかせる。
船内に完備されていたシャワールームとアメニティグッズのおかげでその身体は清潔そのものだ。相変わらず学校指定のワイシャツとぴちぴちのイエロウTシャツを着用しているが、ちゃんと三日に一回は潮水で洗濯して甲板で干していた。
ブラジャーはしない主義である。元々つけていない。
(寒い……)
「静かな街ね……」
ベースを抱きながら後に続くレイ。
手入れの効いた黒いロングヘアーが、冬のロンドンの空気に触れる。
身に纏った黒いロングコートも、ロンドンのシックな街並みへすぐに馴染んだ。
ただし、お菓子の食べ過ぎでちょっとばかし太ってしまっている。
(……海外のおやつって、カロリー高いのよね)
「ここが新たな戦場か。待ちくたびれたぜ」
グレンG、上陸する。
ライオンの
数か月前まで80キログラム後半で留まっていたその体重は、長旅の中で繰り返されてきた暴飲暴食によって三桁レベルにまで成長している。
その威圧感たるや、まさに百獣の王である。
旅の先々で立ち寄った世界各国の名物料理たちが、彼女を更なる高みへと押し上げた。
(何もかも喰らってやるよ。覚悟しな、ロンドン)
「やっと着いたにゃあ~!」
クルーザーから跳ね降りるシャム。
グレンGとは対照的なミニマムボディに、流浪のカラスから譲り受けた
そしてそのホットパンツには、濡れた痕跡が一切見られない。
そう。
シャムはなんと、あの〝サイケデリカ〟でのライブ以降、一度もOMORASHIをしていない――。
(ボクはもう、漏らさにゃい。漏らすのはもう、やめたんにゃ!)
シャムは前回のライブで大きな成長を遂げ、ただ漏らしているだけの自分にサヨナラを告げた。
史上最大規模となるであろう今回のライブは、その成果を披露する絶好の機会となるかもしれない――。
☆☆☆☆☆
「みんな降りたわね、さっそく教会へ向かうわよ」
出発を告げる奈緒。
港から先陣を切り、メンバーを先導する。
それに合わせ、レイ、グレン、シャムの三名が後に続く。
奈緒たちが目指したのは、郊外にある巨大建造物『アレクサンダル大聖堂』。
奈緒が唯一敬愛する伝説のギタリスト《テッヅ=カオサム》が、1999年にコンサート会場として使用し、そのライブ中に夏風邪をこじらせて立ち往生した歴史的現場である。
聖堂のメインホールには、ギターを掲げる彼の銅像が
奈緒たち四人は、そんなロックの聖地でライブをやりたいがため、日本からわざわざ足を運んできたのであった。
「それじゃあ、いってきまーす」
挨拶を放つ一同。
ひとり甲板に残るオヤジへ、背中越しに言葉を投げる。
そのまま、四人とも、一歩も振り返ることなく、目的地へと足を進めた。
「おう、がんばれよ~」
返答するオヤジ。
今回のライブ、オヤジは船で留守番である。
本当は奈緒たちに同行したかったが、船舶の運転に全精力を使い果たしたため、その身体はとっくに限界を超えていた。
本当は、一緒に行きたかった。
(今回のライブ……俺は、一緒に行くことは、できない……)
だけどオヤジは、これでいいと思った。
〝奈緒たちを無事にライブ会場へ運ぶことができた〟
そのことだけに満足するべきだと、そう思った。
それが裏方である自分の仕事だと、そう思った。
「うっ……!!」
仕事を終えた安堵からか、全身に蓄積した疲労がオヤジの前頭葉を揺さぶった。
(みんな、すまねぇ……)
本当は、一緒に行きたかった。
(どうやら俺は、ここまでのようだ……)
奈緒たちの背中を見届けたオヤジは、サングラス越しに両目を閉じ、その狭い甲板の上へと倒れ込んだ――――
バンドの裏方として責務を全うし、その役割を終えた瞬間である。
次に彼が目を覚ました時、そこは刑務所の独房となる。
このわずか数分後、彼は、パトロール中の地元警察に逮捕されてしまうのだ。
更生する気など更々ない彼にとって、逮捕されることはすなわち死に等しい。
もちろん、現在の彼がそのことを知る術はない。
しかし彼は、その絶望的な未来の訪れを、なんとなく予見していた。
(フフッ、笑える死にざまだな……)
なぜなら彼は、一流だから。
一流の音楽プロデューサー。
先見の明は誰にも負けない。
売れるバンドと、売れないバンド。
生き延びる者と、消えて逝く者。
彼はすべてを知っている。
(おそらく、今回があいつらの
彼は、自分の行く末もわかっている。
だからこそ彼は、感謝の言葉を瞑想する。
(ありがとう、デスペラードン・キホーテ。お前らの音楽に携われたこと、俺の一生の誇りにしたい――)
狭い甲板の上で、オヤジは深い眠りについた。
彼が残したメッセージは、誰に届くことなく大海の彼方へと消えていった――。
『JDB55』(本名:
職業:音楽プロデューサー
罪状:犯罪者ほう助、脱税、不法入国 など
好きな食べ物:イカ天
☆☆☆☆☆
ロンドンの港から歩くこと約7分。
奈緒たち四人は、草原に囲まれた大きな一本道へ出た。
その最奥には、西洋風の巨大建造物が堂々とそびえたっている。
「これが、『アレクサンダル大聖堂』……」
その外観は、東洋の世界遺産『タージマハル』を西洋風にアレンジしたかのような感じのデザインであった。大きさもほぼそれに近く、とにかくすごい。
聖堂の入り口付近には、たくさんの観光客たちがそれぞれの時を過ごしている。
何かの取材だろうか、カメラやマイクなど大型の撮影機材を運ぶテレビクルーのような人種もちらほらと窺える。
奈緒たちが入口へ近づくと、それらはかすかな騒めきを見せた。
外国語なので内容はわからない。入口の扉の前には、『関係者以外立ち入り禁止』っぽい看板も立っている。
しかし、傍若無人な奈緒の瞳には、その看板の忠告文が、まるで自分たちを歓迎しているかのような文言にしか見えなかった。
「さあ、中へ入ってライブを始めるわよ!」
ギターを掲げる奈緒。
「ええ、がんばりましょう!」
ベースを抱き上げるレイ。
「どんなライブになるのか、楽しみだな」
拳を鳴らすグレンG。
「わくわくするニャア……」
笛を舐めるシャム。
2017年、
四人はそれぞれの楽器を胸に、聖堂のメインホールへと足を踏み入れた――。
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