4th LIVE 極楽調テクノロリポップの変
第25話 地下ハウスインザマウス(Mouth to House)
「ドア、シマリマース」
『閉』のボタンを押してエレベーターの扉を閉めるエリィ。
そのまま長い手指を広げ、『3』『2』『1』『B1』のよっつのボタン全てを同時に押している。
「ちょっと、どこへいくつもり?」
その挙動に、思わず質問する奈緒。
エレベーターは既に下へと動き出している。
「秘密の地下ハウスにミナサンをご案内いたしマウス」
はきはきと答えるエリィ。
同乗する四人に背を向けたまま、機械的に要件だけを返した。
「地下ハウスだと?」
反応するグレンG。
その表情はどこか嬉しそうである。
「この
「……今日はもう休めそうにないわね。まあいいわ」
言いながら腰を下ろすレイ。
連戦に備え、少しでも体力回復をはかりたい。
「にゃんだかよくわからんけど上等だにゃあ! やってやるにゃあ!」
寝起きにもかかわらずやる気満々のシャム。
リコーダーを掲げて意気込む。
「あたしたちに、立て続けにライブをやらせるつもりなの?」
首をかきながら質問を続ける奈緒。
「そういうことにナリマース。ほとぼりが冷めるまで、地下クラブに身を隠したほうが安全だとオモイマスタ」
淡々と自分の意見を述べるエリィ。
「ニッポンのポリスメンは、優秀デスカラネ」
事実、警察は地下駐車場にまで手を回しており、結果的には懸命な判断であったと言える。
不法入国者であるエリィは、彼らから逃れるため、あらゆる脱出ルートを常に想定している。
今回のインストアライブのオファーを受けたのも、事前に裏インターネットで地下施設の存在を
「ふぅん。だいたい事情はわかったわ。要は、
言葉足らずなエリィの説明を飲み込み、ギターのチューニングを始める奈緒。
「イエス。ニッポンの公務員は、夕方になると帰宅する風習がアリマス。それまで地下で待機シマショウがグッドアイデアだとオモイマスタ」
やや間違った解釈で話を進めるエリィ。
「こそこそ隠れるのはロックじゃねぇが、一度乗っちまった流れに身をまかせるのもまたロックなんだよなあ……」
強引に納得するグレンG。
そうこうしているうち、五人の乗るエレベーターがガクンと動きを止めた。
「ツキマスタ~」
ゆっくりと開かれた扉の先には、カーテンに仕切られた狭い空間が広がっていた。
右手にはバーカウンター。グラスを磨くバーテンダー。
左手にはカジノテーブル。ディーラーが手際よくトランプを配っている。
奥には小さなDJブースがあり、クラブミュージックがだらだらと流れている。
「表向きは一般向けの商業施設……ふたを開ければ裏カジノって、この建物なかなかクレイジーだわ」
冷静に分析するレイ。
店内の客は数人ほどしかいないが、誰もが富裕層のような
「このモールの経営者、かなりの
奈緒が吐き捨てながら先陣を切った。
「あらゆる層をターゲットにしちまう強欲さはロックだと思うぜ。ただ、それが違法行為じゃお話しにならねぇな」
まっとうな語り口で非難するグレンG、後に続く。
「さあミナサン、ココで夜の訪れをマチマショウ。ニッポンの
改めて目的を口にするエリィ。
『警察は公務員=公務員は定時に帰宅する』という主張はぶれない。
「……その解釈じゃなんか不安だけど、まあいいわ」
レイ、承諾する。
重い腰を上げ、エレベーターを後にした。
「のどかわいたにゃあ~!」
店内に入るなり、バーカウンターへと駆け出すシャム。
身を乗り出してさっそく注文する。
「テキーラくださいにゃ」
「…………」
無言で水道水を差し出すバーテンダー。
未成年の飲酒は禁止されている。
「あんたさあ、お金ないくせに何やってるの?」
「……ぐびぐび……ぷはあ……」
「ダイジョウブ。安心してクダサイ。ワタシ、マネーあります」
「あら、優秀ね」
「しょうがねぇな。ひとまずティータイムとしゃれこむか」
シャムに続き、次々とバーカウンターへ腰を下ろす四名。
席に着くなり、次々と注文を押し付ける。
「クリームソーダ。アイス中盛り」
奈緒が注文する。
「カプチーノプリーズ」
エリィが続く。
「
レイも続いた。
「おれはハンバーガー。わさび抜きでな」
グレンGが机をたたく。
「五秒以内によこせ。おれは腹が減っているんだ」
「…………」
黙り込むバーテンダー。
ピタッと止まる店内BGM。
奥にあるDJブースからは、ターンテーブルを操作する怪しい影が、奈緒たちへ不気味な笑みを送っていた。
【招かれざるお客様がいらっしゃったようでございますわね……】
『DJアゲハ』
ジャンル:クラブミュージック
罪状:違法賭博店経営
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