第140回『お願いします』→落選

「お前、今まで星にお願いしたことないだろ?」

 五年前の七夕祭りの夜、二人きりの公園で健太が私に言った。

 星に興味が無いことはバレバレだった。だって宙を見上げる健太の方がずっと素敵だったから。

「あ、あるわよ……。でも星が流れるのって一瞬じゃない? 三回もお願いするなんて無理だよ」

 仮にお願いできたとしても、本当に叶うとは思えないし。

「ほら、やっぱり。気合いが足りないんだよ気合いが。やる気になればできる!」

 いつも空を見上げて、星が流れるたびに早口言葉を唱える健太。そんなあいつが、本物の宇宙飛行士になるとは思わなかった。

「大気圏突入で宇宙船が燃え尽きる時ってさ、流れ星の三倍長く光るんだってよ」

 帰還を翌日にひかえた交信で、健太は突然、縁起でもないことを言い出した。

「これは鈍くさいお前のために言ってるんじゃないからな。俺の人生が、少しでも世界中の人の役に立てたらいいなって……」

 そんなこと言わないで。私のお願いはたった一つなんだから。

 それにもしそんなことになったら、私は一体何をお願いすればいいの?

 今夜あいつの帰還を見上げながら、胸の前で組んだ手にぎゅっと力を込めた。

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