第132回『やわらかな鉱物』→落選
「ねえ剛、最後に見せたいものって何?」
晶子を喫茶店に呼び出した剛は、テーブルの上に置いた右手をゆっくりと開く。掌の中から現れたのは一粒の結晶だった。
「へえ、綺麗ね。それって水晶?」
「トパーズだよ」
「トパーズ? だってそれ透明じゃない?」
「本来、トパーズって透明なんだ。嘘だと思ったら、その水晶のペンダントで擦ってみるといい。やらわかい水晶の方に傷がつく」
「嫌よ。このペンダントは母の形見なんだから。ていうか、それってこの間の仕返し?」
『あなたと居ると私の心が傷つくの。だから距離を置きましょ』
剛は、晶子の言葉を思い出していた。
「君の言葉で目が覚めた。すべては僕の強がりだったんだ。本来の自分をさらけ出すと僕の方が傷つきそうで、それが恐かった」
剛はコーヒーを一口含むと、ゴクリと飲み込んだ。
「君を失いたくない。だから、このトパーズのような強がりを捨てる。君となら傷ついても構わない」
射抜くような視線に根負けした晶子は、剛に右手を差し出す。
「じゃあ、それ貸して。あなたの言葉が本当か試してみるから」
そして晶子はペンダントに語りかけた。
「いいよね、お母さん?」
キラリと光る結晶面は、微笑んでいるように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます