第130回『ありきたり』→落選

 ――学校を爆破する。

 そんなことをネットに書き込もうとしているものだから、僕はあわてて麻里を制止した。

「ダ、ダ、ダメだよ、それを掲示板に投稿したら!」

 リターンキーを押そうとする麻里の右手を掴むと、彼女は静かに振り向いた。

「だって今日はエイプリルフールじゃない」

「だけど、そんなこと書いちゃダメなんだよ」

 いったい彼女は家庭でどんな教育を受けてきたのだろう。

 あ然とする僕の表情を眺めながら、麻里は静かに言う。

「じゃあ、警察を爆破、にしておく」

「余計ダメだって!」

 つい、声を荒らげてしまった。

 しゅんとなった彼女は、小さな声で僕に呟く。

「犬小屋は?」

「それなら……ってダメダメ、それもダメ!」

「じゃあ、何を爆破させればいいの?」

「うーん……」

 上目遣いで訊かれると困ってしまう。

 エイプリルフールに爆破予告していいものってなんだろう?

 腕を組んで僕は考える。

「芸術とか?」

 その答えを聞いて素早くパソコンに向き直った麻里は、ポチっとリターンキーを押した。

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