第111回『煙』→落選

 こんな田舎の国で、はたして車が売れるだろうか?

 日本から持ち込んだ販売促進用の自社製品、つまりこの高級車を運転しながら俺は不安になる。

 辺りは一面の荒野。コンクリートで舗装された道が一本、果てしなく続いている。

「おっ、対向車だ」

 近くに街があるのだろうか。久しぶりに前方に車が見えた。

「えっ!?」

 すれ違ったその車に俺は目を疑う。なぜなら、俺が今乗っている車にそっくりだったからだ。

「まさか、この車種はこの国ではまだ発売されていないはずだ」

 それもそのはず、その役目は俺が担っているのだから。

「あっ、あの車も……」

 街が見えてくると、そっくり車の数も増えてきた。そっくり車が停まっているドライブインもある。

「畜生。あの車、何てメーカーが造ってるんだ?」

 俺はドライブインの端に車を停めると、そっとそっくり車に近づく。リアのエンブレムを確かめるためだ。しかしその時――

「うっ、ご、ごほっ、ごほっ……」

 もうもうと排気ガスを撒き散らして車が発進。

「なんだよ、メーカー名が分からなかったじゃねえか。でもエンジンは現地産だな」

 かろうじて見えた車名は『KEMRY』だった。

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