第106回『結晶』→落選

「結晶ってさ、気体からもできるんだよ」

 そんなこと、どうだっていいのよ。純一も相変わらずね。

「ほら、あれを見てごらん。地面から噴気が出てるだろ」

 ここ、恐山って火山地帯だったのね。

「ガスに含まれる硫黄が気体から直接結晶になってるんだ」

 確かに噴気が当たるところは、キラキラと黄色く光ってるわ。

「それでさ、気体が結晶になる現象を『昇華』って言うんだけど知ってた?」

 純一のそんな講釈が懐かしい。それがまた聞けるのも、この場所のおかげかもね。

「それって違うんじゃない?」

 思わず反論しちゃった。昔はよくこうやって議論したもの。

「じゃあ、何て言うんだい?」

 純一は意地悪そうに問いかけてくる。

「晶出?」

 その響きに私は嫌な言葉を思い出した。

 ——消失。

 純一と会話をするのは彼が失踪して以来だから。

「そうとも言うね」

 なんでそんなに平気でいられるのよ。

 純一がいなくなって私、すっかり絶望しちゃって、最後にここに来たんだから。

「じゃあ、この結晶は霊が晶出したもの……?」

 イタコが右手を開くと、人の形の結晶が姿を現した。

 そう、それは私の魂の形。

「今頃になって会いに来るなんて、あなたも意地悪ね」

 老婆が私の気持ちを口にした。

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