込み上げる、何かが

「カ~ズ~」

「おかえり……って慧梨夏、大丈夫か顔色悪いぞ。イベントで人酔いしたか」

「事件だ……」


 慧梨夏がとんでもない顔をして帰ってきた。血の気がちょっと足りないような感じ。どんな事件があったのかはパンピーの俺にはちょっとよくわかんないけど、血の気がないのはよろしくない。

 今日は例によってイベントということで慧梨夏はアヤさんと一緒に参戦することになっていたと聞いている。それと、就活で出会ったお仲間の人を巻き込んだとか。


「アヤちゃん今日具合悪くて来れなかったんだよ」

「あ、そうなのか。大丈夫かなあ」

「それはそうと、お仲間の人……事件だ……」

「どうした慧梨夏、落ち着け。お仲間がどうした」

「お仲間の人……9割9分、アヤちゃんの“先輩”だ……」

「……事件だ!」

「でしょ!?」


 いや、つかこれマジでガチな大事件じゃねーか! アヤさんが探してるっていう、星ナントカ大学にいる先輩だろ!? まさか同人イベントの現場で発見されるとか! しかもその現場にアヤさんは体調不良で来れなかったとか!

 慧梨夏の血相がよろしくないのに納得しつつ、とんでもない確率でぶち当たったモンだなと恐怖すら覚える。ええー……アヤさんがあんだけ探し回ってるのに見つからなかった物を慧梨夏がたまたま見つけるってヤバくねーか。


「で、その先輩ってどんな感じの人だった?」

「人当たりのいい感じだよ。話しやすいし。元々就活で出会ってるし興味が似てるからっていうのはあるかもしんない」

「ああ、イベントとかそっち系な」

「そうそう。で、作業スタンスがうちと似てるの」

「ワーカホリック。溜めるだけ溜めないと火がつかない」

「そう」

「つかお前みたいな作業の仕方してる奴がまだいるとか引く」

「うちだってその人の作業の仕方聞いて感動したよ、初めて話が通じる人に出会ったって! それでさあ、うちが本出しましょうって誘った後、久々にレッドブル飲みながらわーって書いて楽しくてって喜んでてさ」

「レッドブルの過剰摂取はよろしくない。俺の友達にもレッドブルめちゃ飲みながら作業する子いるけどよろしくない」


 つかカオルみてーなことしながら作業するのは本当によろしくない。ご飯からの栄養と十分な休息をとりながら作業をしないと効率だってよろしくないだろうに。と、一般人でもそう思います。


「カズの友達にもいるんだ。どんな子?」

「放送部でステージの台本とか書いてるプロデューサーだったんだけど、鬼のPって呼ばれててステージに関わるときはマジで鬼。その他の時はすげー気さくで話しやすいんだけど」

「ちょっと待ってカズ。お仲間の人、放送部でステージの台本書いてたって言ってた」

「ちょっと待て慧梨夏。星ナントカ大学で放送部、ステージの台本書いててレッドブルとかすげー絞られるぞ。アヤさんの先輩ってことは出身も山羽だよな。……お仲間さん、カーディガンを肩からかけて結んでたりとかは」

「結んでた!」

「はい確定! カオルじゃねーか!」


 う、うわー……事件だ。でもカオルならアヤさんのことを忘れてても「まあ、カオルだしなー」で済んじまうところが何だかな~。つかカオル何やってんだよ慧梨夏にそそのかされて同人誌デビューとか。

 うわ、吐きそう。胃液が上がってくる。俺もうわーってなってるし、そりゃ慧梨夏も顔色悪くなるよな。今日の夕飯は胃に優しいメニューにしよう。卵たっぷりの雑炊がいいかな。


「カズ、ところで朝霞クンが言ってる相棒の子や尊敬してるっていう先輩のことも知ってる?」

「ああ、それならよっぺとこっしーさんじゃないかな」

「ちょっ、詳しく!」

「待て慧梨夏お前急に元気になりすぎだろ!」

「だって朝霞クンの話がオイシイのが悪い!」

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