文字通りに捻り潰すぞ☆

「ナ、ナンダッテー!?」


 これ、向島の野坂クンの叫びだと思うデショ? ところがどっこい、その場にいた長野っちと紗希ちゃん以外の全員から発せられた心からの叫びなんだよね~。高崎クンも、石川クンも。普段そんな叫び方をするキャラじゃない子だって思わず出た声。


「え、つか長野お前いつの間に」

「さっきーの怪力で潰されないか不安で仕方ないよ」

「聞いたときはびっくりしたけど、さとちゃんが幸せそうだからあたしも幸せを分けてもらってるよ。泣かせたら潰しちゃうけど」

「長野、料理上手で家庭的な嫁さんを捕まえたじゃないか」

「議長、ご祝儀は弾んでね」

「あっ、電気代の赤紙来てたの忘れてた」


 たまたま前対策委員のみんなの予定が合ったから集まってみたら、近況報告で長野っちが言ったんだよね、彼女が出来ましたって。長野っちなんて入院してたしずーっと会ってない人の方が多かったから、ちょっと見ない間に何してんのって。

 しかも、そのお相手が青女のさとちゃん。2年生の、おっとりした感じの優しそうな子だよね~。インターフェイスの子ではあるけど、出会いはインターフェイス経由じゃなくて全くのプライベートだったんだって~。

 ちなみに、2人とも互いにインターフェイスの関係者だってことを知らなくて、付き合い始めてから改めて自己紹介をしたときに、えーって。まあ、長野っちは対策委員でも陰の薄い方だったし~。って言うかツートップが濃すぎて俺も薄いよね~。


「食事療法を手伝ってくれてる子の話は聞いてたけど~、それがさとちゃんだったんだね~」

「おかげで食事に気を遣うようになったし、料理も出来るようになったよ」

「はいはい。惚気かよ」

「いいじゃない。付き合い始めの楽しい時期だよ。それに、人の恋路を邪魔する者は呪っちゃうよ~って言葉もあるし。ねえ、高崎」

「あるか、ねえよ、ふざけんな。つかお前が馬に蹴られろ」


 こういう喫茶店でも長野っちは飲める物が限られていて、備え付けの水を飲んでいる。コーヒーだって刺激物。氷を入れない常温に近い水と個包装のカステラを摘む。そんな生活だから、食事に気を遣ってくれるさとちゃんの存在は大きいそう。


「裕貴さんが言ってたんだ~。さとちゃんが作ったカスタードクリームのお菓子、食べた~?」

「食べた食べた。すごく美味しくて感動した」

「カスタードのお菓子と聞いて!」

「ほら、議長サンの地元銘菓にもあるでしょ~、黄色くて、丸くて~」

「あるある。えっ、沙都子はもしやそれも手作り出来るのか!? えー、いいなー食べたいなー」

「ダメー、俺のー」

「くーっ」


 長野っちの惚気は某バカップルのそれと違って何となくかわいらしさがある。それこそ本人の言う付き合い始めの初々しい感じなのかもしれない。しかし長野っち、かわいいなあ。さとちゃんのことが大好きなんだな~、いいな~。

 基本、人目もはばからずに惚気まくるバカップルは馬に蹴られろっていうスタンスの議長サンも長野っちの話は食い入るように聞いてる。表情が乙女していて非常にかわいいけど~、高崎クン的にはどうなのかな~?


「でも長野、お前就職はどうするんだ。卒業も遅れるんだろ」

「石川、それ言う? でも、ちゃんと考えてるよ。地元で就職するのも決めてる」

「そしたらゆくゆくは遠距離か」

「まあ、言うほど遠くもないよね。昔と違って今は連絡も取りやすいし」

「それもそうか」

「そう、昔と違って今は連絡も取りやすい。だから俺たち前対策委員もこまめに連絡を取り合って、そのときにはご祝儀をたんまり包んでもらって。ぶっちゃけこのメンツ女子はともかく男は結婚向いてなさそうでしょ。俺が一番乗りだよねこの感じだと」

「事実なだけに反論出来ないでしょ~」


 女の子を含めても長野クンが一番乗りだと思うな、という紗希ちゃんの呟きにとても悲壮感がある。……そうだよね~、議長サンは完全に受け身だから高崎クンか野坂クン次第みたいなところがあるけど、あれっ、でも紗希ちゃんて?


「うふふ、長野クンが幸せそうで何より」

「さっきーの笑みが怖いです。俺が何かしましたか」

「ううん、さとちゃんに何かしたらどうなるかなーって」

「保護者こわい。まだちゅーまでだから許して」

「ちゅ、ちゅーだってー!?」

「菜月、その手の話に対する免疫のなさはお前が本当に向島か疑いたくなるレベルだぞ」

「長野クン、詳しい話をいいかな?」

「福島さん怖すぎだろ……」

「シッ。石川、巻き込まれて潰されるぞ」


 なるほど、良くも悪くも青女の子に手を出すとこうなるのか~。

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