バチバチレスキュー

「もう、ここまで来ると超能力か霊的な何かだと思うんですよね」

「いいからお前はマシンから離れろ」

「うう、すみません」


 カナコさんが例によってやらかしてしまった。幸い今日は利用者の少ない日だからよかったけど、これがわーって人が押し寄せてる時だったら。あーこわい。

 今まで、機械音痴のカナコさんがセンターのマシンに触るときには春山さんの目があった。だけど、今日はそれがない。新バイトリーダーとなった林原さんの責任で、とは言え林原さんはB番で自習室にいるから俺がカナコさんに付き添う形での業務。


「しかしまあ、派手にやってくれたな」

「何もしてないのにカーソルが動かなくなるんですもん」

「何もせずにそんなことが起こるか」


 そう言って林原さんはマシンを強制終了してコンセントを引っこ抜いた。本当は1時間半ほど待ちたいそうだけど、受付マシンにそんな余裕はない。1分半ほどで再起動。


「わーっ! 動いたー!」

「よかったですー!」

「中身が完全にイカれてなくて良かったな」


 システムにも異常なし。心置きなく業務の続きを。だけど、しばらくは俺がメインで受付席にいるようにとの指示。そしてカナコさんは後ろの方でしょげしょげと反省しているようだ。何もしていないのに何を反省できるんだろうとは少し思うけど。


「綾瀬、A番マニュアルを持って来い。何をどうしたらああなった」

「ゆっくりと正確にっていうのを心掛けてマニュアルの通りにやってたので、必要なところ以外は触ってないはずなんですよね」

「川北、本当か」

「見てる限り今日は危なっかしい感じじゃなかったですねー」


 そして、林原さんがカナコさんからマニュアルを受け取ろうとした瞬間のこと。手が触れ合ったように見えたけれど、次の瞬間には勢いよく離れていた。


「……くっ。やはり冬場だな。静電気が強い」

「すみません雄介さん。私、季節問わずよくバチッと来るんですよ」

「ん?」


 何かが引っかかったらしい林原さんが、急に調べ物を始める。静電気を溜め込みやすい帯電体質と機械類との相性についてを。帯電体質と霊感についてのページもあったけど、そういうところはスルーして。


「これか…! 綾瀬、今着ている服の組成は何だ」

「えっと、ウール50%、ポリエステル50%です」

「この部屋の湿度は」

「えっと、30%です」


 すると林原さんはロッカーの方で何やらごそごそと探し物を始めた。探し当てたそれをカナコさんに差し出して、付けておけと一言。


「今この部屋は静電気が発生しやすい環境にある。もしかするとお前はただ単に機械音痴なのではなく、軽い帯電体質なのかもしれん。もちろん鵜呑みにしてもらっても困るが、センターに居座る気なら次回からは静電気対策をして来い」

「えっと、このハンドクリームは」

「オレの私物だ。付けておくと多少違うと今さっきのページに書いてあった」

「こんなにおしゃれなクリーム……さすが雄介さん、ハイセンスです…!」

「いいからさっさとつけろ」

「すみませんお借りしますっ」


 そして林原さんは机の下に潜って各種コンセント類のアースを取り付け始めた。こういうところのコンセントなんて何年単位で刺さりっぱなしなのが当たり前で、アースなんて見てもいなかった、と。

 アースを挿してあれば、多少の静電気でどうこうなりにくい。そもそも、パソコンを扱う教室は水気がないものだという前提があるからか、その辺りのことがゆるゆるだったらしい。


「さすが林原さんですねー、パパッと解決しちゃうだなんて」

「いや、まだ何も解決はしていない。そもそも綾瀬が本当に帯電体質なのかも定かでないし、今回の動作不良が本当に静電気によってもたらされたのかもわからん。だが、可能性は少しでも潰しておかねばならん。今はまだ仮説を立て、検証に入った段階だ」


 そう言って林原さんは自習室に戻っていった。俺の後ろではカナコさんが画面と林原さんお手製のマニュアルとを交互に見比べながら勉強をしている。あれっ、そう言えば、林原さんのカナコさんに対する態度がちょっと柔らかい、ような…?


「って言うか雄介さんのクリーム本当におしゃれ。いい匂いだし。どこで買ったんだろう」

「聞いてみたらいいんじゃないですかー?」

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