割り入る隙があるのなら

「メグちゃんの好きそうな物って何だろうね」

「と言うか、宇部のことなら俺よりもお前の方が知ってるんじゃないのか」

「ううん、朝霞クンが思うより俺はメグちゃんのことを知らないの。知ってたとしても古い情報だからネ」


 もうすぐメグちゃんの誕生日。せっかくだしお祝いしたいよね、と朝霞クンとプレゼント探しの旅。旅って言うか、星港の街なんだけど。そもそも、メグちゃんの好きそうな物とは、というところから始まる。

 メグちゃんはあまり華美という印象はないし、どちらかと言えば実用的な物を好むのかなという気はする。贈るとすれば長く使える良い物とか、生活に役立つ物の方がいいのかなって。

 だけど、メグちゃんの生活というのがまず謎に包まれていたりする。メグちゃんと付き合ってた俺が言うのって感じだけど、それこそそんなことは古い情報で、今のメグちゃんは忙しいというイメージしかなくって。


「宇部って今実質一人暮らしみたいなモンだろ。生活ってどうしてんだろうな」

「えっ、そうなの? お母さんは」

「母親は男んトコにいることがほとんどらしい。とっかえひっかえしてるとか何とかって」

「朝霞クンよく知ってるねそんなコト」

「前に飲みながら愚痴られた。こっちに来てから開き直りすぎなんだって。だから研究室で泊まろうが何しようが不自由ないっていう点ではいいけど、とは言ってた」

「アハハ~……」


 メグちゃんはカリカリすると早口でまくし立てるっていう癖があるけど、愚痴にしても同じなんだね~って。朝霞クンは酔ってるときのメグちゃんについてあーだこーだと言っているけど、思えば俺はそんなメグちゃんの愚痴を聞いたことがない。


「おっ。山口、お前また服ポプリの側に置いてたか?」

「ああ、金木犀の?」

「うっすらと匂いがした気がする」


 匂いの主は、きっと俺じゃなくて今さっきそこの角ですれ違った女の子だと思う。髪の長い、綺麗な子。安っぽい芳香剤みたいな臭いじゃなくて、上品な金木犀の花の香りがした。

 前に朝霞クンの記憶と金木犀についての話をしていたことを思い出した。高校時代の記憶。現地でもそこで何があったか思い出せなくて、地元の友達には「スイッチが違うんだよ」って言われたそうだ。


「意識はしてなかったけど、また近くに置いちゃってたかな~。うん、うっすらと匂いするかも~」

「いい匂いだけど、季節感がちょっとな」

「あはは、だよね~」

「何かもう金木犀の匂いがするとお前の存在を疑うよな」

「え、そんなに?」


 うん、これでいい。本当はポプリの側に服なんて近付けてないんだけど。朝霞クンは今目の前にいる俺のことを見てればいい。過去の記憶なんてどーでもいーデショ? そう振り返ることはしないって言ってたじゃんねイブに。


「えっと、宇部の好きそうな物だよな。なるべく実用的で」

「って言うかメグちゃんて就活するのかなあ。就活するんならそういうのに便利そうな物とも思ったけど」

「院に行くことも考えてるとは言ってたからな。えーと、宇部なー……あっ、箸なんかどうだ?」

「お箸?」

「アイツ、研究の一環で漬け物食ってるし。でもマイ箸はもう持ってるかな。そうじゃなければ鏡とか」

「いいと思うよ」


 そうとなったらさっそく良さそうな物がありそうなお店へ。選ぶのは朝霞クンにお任せ~って思ってたら、俺も選ぶんだって。コーディネートさえしなきゃ、物を選ぶセンスは悪くないからって。やったね、朝霞クンに誉められちゃったよ。

 でも、やっぱりちょっと引っかかる。確かに俺が持ってるメグちゃんの情報は古いけど、朝霞クンとメグちゃんの間の信頼関係っていつからこんなに強くなってたかなあ。俺も2人と仲良くしたいのに。


「朝霞クン、俺にも帽子か何か選んでくれる~?」

「ったく、しょうがないな。宇部のプレゼントの後だぞ」

「もちろん」

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