お寒い日のおアツい事情

 突然でびっくりした。林原さんが、鍋でもしないかって。詳しい事情は後で話すし材料は全部オレが準備すると言われれば、わかりましたと返事するしかない。今日はセンターも開放されていないしその他の予定もない。

 とりあえず部屋をきれいにしておかなくっちゃなーと簡単に掃除を始めると、インターホンが鳴る。えっ、早くない? さっき電話があったばっかりでもう!? ひゃー、掃除が間に合わない!


「ミドリー」

「えっ、ユキちゃん! どうしたの?」

「お姉ちゃんがバイト先でお土産もらってきたんだけど、うちじゃ食べきれないしーと思って」

「わー、雪の恋人。ってことは北辰のお土産だー。でも、わざわざこんな日にありがとう。あったかいお茶でも飲んでってー」

「ありがとー」


 今日は全国的に大寒波に見舞われている。実家の方はきっとどかどかと雪が降って大変なことになってるんだろうなあと思いつつ、慣れない向島の方が少し怖い。普段降らないところで雪が降るって言う方が怖いもんね。

 ユキちゃんには春山さんからもらったバターサンドを出しつつ、温かいお茶の支度をする。えーと、さっきまで何してたっけ。……まあいっか。今はお茶が最優先。すると、再びピンポーンと鳴るインターホン。


「川北、来たぞ」

「わーっ! 忘れてた! 林原さん早かったですねーって、福井先輩も!?」

「……私は、料理要員……」

「サークルの先輩なのだから問題なかろう」

「えっと、狭いし汚いところですけど上がってくださいっ!」


 ――と、林原さんと福井先輩を部屋に通して思い出す。


「……私たち、邪魔だった…?」

「わーっ! えっ、えっと、インターフェイスの友達ですっ!」


 もう何がなんだかわからない! 誰か助けてー! この際春山さんでも烏丸さんでもいいですからー!


「えーと、ミドリ?」

「バイト先の先輩とUHBCの先輩で、えっと、寒いからお鍋するってことでいいんですよね林原さん!」

「そういうことだ」

「ユキちゃんもよかったらどう!?」


 って俺は何を言ってるんだー!


「じゃあ、お母さんにご飯いらないって連絡するねー」

「わー、よかったー!」


 って何がよかったの! うう、展開が急すぎてテンパりが止まらない。


「お、雪の恋人か」

「えっと、その雪の恋人はユキちゃんのお姉さんがバイト先でもらってきたのを分けてもらったんですー」

「北辰土産の定番だからな。オレも春山さんに押しつけられた物を洋食屋の同期に押しつけたのだが、またぎゃあぎゃあ喚いてな」

「あ、林原さん例によって……あ、ユキちゃん、センターの先輩の林原さん。副業的に洋食屋さんでピアノも弾いてるんだー」

「ミドリの友達の上野です。……と言うか、その洋食屋さんて西海市ですか?」

「そうだが」

「もしかして、その同期って上野友夏じゃないですか?」

「ほう、知っているのか」

「お姉ちゃんがお世話になってます」

「上野の妹か」


 ということでこの雪の恋人が無事に(?)春山さんから出たものだとわかったところで、これから始まるのはお鍋の準備。とは言え、台所は女性陣が占拠しているので俺と林原さんは部屋のセッティングが仕事。

 台所からは、美味しそうな匂い。聞こえてくる声からすると、ユキちゃんが福井先輩から料理を教えてもらっているような雰囲気。福井先輩て料理上手なんだなあ。助っ人で呼ばれるわけだ。ちなみに、沸かしたお茶は林原さんが美味しくいただいている。


「川北」

「はいー」

「仮説だが、お前が片想いを拗らせている対象は上野の妹のことか?」

「ナ、ナンノコトデスカネー」

「心配せずとも春山さんには言わん」

「うう、デリカシーがあるんだかないんだか! さすが林原さんですよもう!」

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