evade roulette

「どちらかがお饅頭で、どちらかがお饅頭でない悪魔の食物……」

「そんな~、どっちもお饅頭じゃない」


 こーたの目の前には、白い皮の饅頭が2つ。それを持ってきた三井先輩はすごいドヤ顔だ。今日はこーたの誕生日ということで、例によって三井先輩のアレが発動しているらしい。

 ちなみに木曜日なのにサークルをやっているというのは、大学祭前で準備やらなんやらで曜日を問わずやれる日はやるよという10月の運営方針にある。

 こーたは和菓子が好きで、ういろうを1本丸ごとポッキー食いしたりするなど血糖値やら将来の体に響きそうな食い方をしている。あんこがたっぷり詰まった饅頭も例に漏れず大好物だ。


「三井、ちなみにお前は毒見をしたのか?」

「ううん、食べるワケないじゃない。舌がバカになっても困るし」

「私なら舌がバカになっても構わないと言うのですか!」

「ちょっ、こーた怖いよ」

「だまらっしゃい! いいですか、ただでさえ誕生日のお祝いという体で暇潰し材料にされているのに、ましてや5割の確率で激辛饅頭を食べさせられる方の身にもなりなさい! これが菜月先輩や圭斗先輩のような辛さに強い方ならいいですよ? 私は辛い物が食べられないんです! もしこれではずれを当ててしまった日には……ああこわい」


 そう、何を思ったか三井先輩は饅頭ロシアンルーレットなる遊びを仕掛けているのだ。片方は甘い饅頭。もう片方は激辛饅頭だ。俺にとってはどっちも地獄のような饅頭だけど、こーたは相変わらずシュンシュンと頭から蒸気を噴出させんばかりの勢いで怒っている。


「まあまあ。シャッフルしちゃったしもうどれが何だかわかんなくなっちゃったから、食べてよ」

「いいえ、辛い物を引いてしまう可能性がある以上、私は絶対に食べませんよ」

「え~、そんな~。せっかくこーたのために選んできたのに」

「私は頼んでません」


 この光景を見ながらひそひそと、菜月先輩と圭斗先輩が「神崎は意外にやるじゃないか」などとこーたを見直しているような、再評価をされているようだ。クソッ、こーたのクセに! いやまあでも三井先輩相手にここまで堂々と押し切れるのは確かにすごいけど。


「ん、神崎が固辞する以上、責任を取ってお前が処理するべきじゃないかい?」

「でもさー圭斗、俺今日そんなに甘い物食べたい日じゃないんだよねー」

「辛いのを食べればいいんじゃないかい? そしたら残った甘い方を神崎にあげればいい」

「それはいいアイディアですね圭斗先輩」

「ああそうだ。過去の学祭の備品のプラスチックフォークがある。これで饅頭を割って、味見をすればいい」


 ふふふーんと鼻歌を歌いながら、菜月先輩が饅頭をフォークで等しく切り分けていく。中身があんこだけに色で味を判別するのもなかなか難しそうだ。うーん、どれが辛いのか全然わからないぞ。


「さあ三井、どれにする」

「これにしよっ。それっ」


 意を決した三井先輩の口の中に饅頭が放り込まれる。それと同時に先輩はもんどりうってバタバタと無言で大騒ぎ。どうやらこっちが外れか。もう一方を菜月先輩が味見をすれば、甘くてうまーという表情。ちきしょう、可愛いぜ! ごちそうさまです!


「さ、カンザキ。こっちが甘い方だ」

「菜月先輩ありがとうございます。あ、良ければもう少しどうですか?」

「くれるならもらうぞ」

「では分けましょう」

「三井、お前は責任をとって辛い方を全部食べるんだぞ」

「み、水…! 菜月、水分けて」

「どうしてお前とボトルの水を共有しなくちゃいけないんだ。自分で買って来い」

「そんな、酷い!」


 ひいひいと辛さに喘ぐ三井先輩を2年生はケラケラと笑い者にする。とんだ道化だと。こーたも楽しんでいるようだし万事オッケーだ。とりあえず、あんこが食べられない俺は何かの間違いで甘い饅頭すら回って来ないように存在感を消すだけだ。

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