対抗策はマジレスの嵐

「実に理不尽な話だが、それがないとも言い切れないのがインターフェイスの現場で、なおかつ向島の……何だったか」

「ムライズムかな?」

「そう、それだ。要は悪乗りだ」


 お盆の帰省から帰ってくると、またすぐに夏合宿に向けた準備が始まった。今日は1年生に対するインフォメーション講習。高崎先輩と伊東先輩が、先輩たち曰く親切丁寧に教えてくれるそうだ。

 だけど、この講習を恐れたエイジとハナちゃんは抜け駆けをして伊東先輩から個別にインフォメーションについて教えてもらっていたらしい。保険をかけた2人に対する高崎先輩からの“しごき”は親切丁寧とかいうレベルを越えていた。

 そしてそれが俺にも飛び火してしまった。俺は保険……じゃない、予習をしていないのにやたらレベルの高いことを要求されるなあと思って。インフォメーションの話は班練習でもさらっと触れたけど、ちゃんと練習するのは初めてなのに。


「なかなか難しいです」

「まあ、現時点でも何となく出来てるから、あとは詰めだね」

「ただでさえお前はペアの相手が菜月だからとか、お前自身緑ヶ丘のミキサーだからとかいう理由でムチャ振りが飛んでくる確率はグンと上がるんだ。あらゆるパターンを予測しておいて損はねえ」

「そうなんですか」

「そうだね。それでなくても対策委員の議長が野坂だし、「難しいインフォメーションを鮮やかにこなされる菜月先輩は素晴らしい!」とかなんとかってハイレベルなヤツを仕込んでもおかしくないよなー」

「いや、「菜月先輩の相方ミキサーであるからには難しいインフォメーションもこなせて当然! 俺がお前を試してやる」とかなんとかってハイレベルなヤツを仕込んでくるかもしれねえぞ」

「あー、ありうるねー」

「どっちにしても難しいのが飛んでくるんですね」


 高崎先輩からのしごきを受けて瀕死状態になっているエイジとハナちゃんが悪い顔をしている。お前もこっちに来いと、そう言われているような雰囲気。うーん、練習はしとかなきゃいけないけど、ああなるのは怖いなあ。

 でも、確かに奥村先輩とペアを組むからには、何がどう飛んできてもおかしくはないんだ。いろんな人からの評判を聞いていると、1年生だからというような言い訳が通用する班でもない。よし、頑張ろう。


「っつーワケだから、いつ、何がどう飛んできても大丈夫なように反復練習だ。伊東、思いっきり性格悪いヤツ頼む」

「はーい」

「アナはエージとハナが交代で入れ」

「えー!? そんな性格悪いヤツー!? しょぼーん」

「さっきまでやってたのよりクッソ難しいのがわかりきってるっていう……」

「あ? あんなのは基礎だ、うだうだ言うな。言っとくが、伊東に性格悪いインフォやリクを作らせたら右に出る奴はいねえからな。お前ら覚悟しとけよ。あっ伊東、手加減は一切要らねえぞ」

「はーい」


 迷子、落とし物、車のライトにその他もろもろ。インフォメーション放送で伝えることはいろいろ。いつ入ってくるかわからないから、番組構成を臨機応変に変更する必要が出てくる。

 アナウンサーさんは、何を伝えるかによって言葉が変わってくるし、番組とインフォメーション放送は別物という性質を理解してモードを変えなければいけないそうだ。一言でインフォメーションと言ってもなかなか奥深い。

 今日だけでいろいろなパターンの“さわり”を体験させてもらったけど、まだまだこの程度じゃ本番には対応出来ないのだろう。数をこなして体にたたき込むこと。番組構成の変更にしても。


「高ピー、とりあえず迷子のゆうやくん5歳が多めでオッケー?」

「何でそうなる」

「アナがなっちさんであるということを想定したらそうなるっしょ」

「今は高木を対象にした性格の悪さをだな」

「何にとは言わないけど、なっちさんが動揺して冷静な状況判断が出来なくなる可能性もゼロじゃないよね」

「割合はイーブンにしろ」

「えー、せっかくゆうやくんインフォいっぱい作ったのに」

「没にすんのが勿体ない出来なら全体数を増やせ」

「はーい」


 もしかして、伊東先輩が山のように作る「性格の悪いインフォメーション」を全部こなすまで帰れないのだろうか。なぜか高崎先輩にも流れ弾が掠めてる気がするけど、それは見なかったことにして。

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