疑惑の小舅さん

「あっL、お前昨日やってたテレビ見た?」

「何てヤツすか?」

「ほら、あの掃除のヤツ。すげー潔癖なタレントとか出てたじゃん」

「あー! はいはい見たっす」


 昨日のテレビ見た、で始まる会話を聞かなくなって久しいなと思いつつ、その話に耳を傾ける。伊東先輩とL先輩はテレビでやっていた掃除特集の内容をとても楽しそうに話していて、趣味だなあと思う。


「梅雨と年末はテレビでも掃除特集が増えるみてえだからな」

「それで伊東先輩とL先輩が楽しそうにしてるんですね」

「でもさー高ピー、効率のいい掃除方法とか洗濯方法とか、そういう豆知識とか裏技的なテクって知ってると得するじゃん」

「まあな」

「さすがに俺はLみたく潔癖じゃないけど、やるからには綺麗にしたいしね」

「ちょっと待ってくださいよカズ先輩、俺は掃除が好きなだけで別に潔癖ではないっす!」

「十分潔癖だって」

「いーや、あそこまではいかないっす」


 テレビでは、潔癖なタレントさんが家族でさえも自分の生活空間を汚すことを許せないといったようなことをやっていたそうだ。洗濯物を畳むのが適当だとか、掃除の仕方が甘いとか、そんなようなことを。

 L先輩は確かに掃除好きなんだなという印象はある。サークル室を頻繁に掃除しているし、果林先輩が何か食べているとこぼさないか常に目を光らせているような気がする。屑が落ちるとそれを即指摘するのだ。


「伊東は宮ちゃんがアレだからともかく、Lなんか絶対女出来ても逃げられるレベルの潔癖だろ」

「ちょっと待って高ピー、事実だけどアレって何」

「お前が一番わかってんだろ」

「えー、高崎先輩まで言いますー? 俺、別に潔癖ではないっすよ。洗濯物畳むのにこだわりないっすし、包丁とかの並び順を気にしたりもしないっすもん」

「……あ」

「どうした高木」


 ふと、思い出した。最近、うちにエイジが今までより頻繁に遊びに来るようになってるんだけど……エイジのうちでの言動を思い出すと、潔癖とか神経質とか、ちょっと思い当たる節がある。


「洗濯物のシワをピチーッと伸ばしながら丁寧に畳んだり、食器を棚にしまうときもミリ単位で置き場所を気にしたりっていうのはどうですか?」

「洗濯物のシワはある程度伸ばすけど、さすがにピチーッとはやんないかな。そもそも干す段階で極力シワにならないようにするし」

「つか何だそれ、食器棚でミリ単位がどうとかって。高木、お前そんな気にする方だったのか」

「あ、いえ、俺じゃなくてエイジなんですけど」


 一人暮らしに悪い意味で慣れてきた俺の姿が、エイジにはひどくだらしなく映っているのかもしれない。どうせすぐ着るからと取り込んで畳まない洗濯物や、捨てる前に洗えばいいやと飲んでそのまま積んである空き缶なんかが。

 気になるポイントを見つけては、もうちょっとどうにかならないかと突っつかれるようになった。カーペットに落ちている抜け毛を拾い上げて、コロコロか掃除機はないのかと訊ねてきたり。最近はタオルケットの毛玉がヒドイと言われた。


「エージもこっち側の住人なのかなあ。なあL」

「いや、俺らより酷いっすよ。俺らは自分とかカズ先輩の場合は彼女さんの部屋とかで趣味に励んでるだけっすけど、エージなんか言ったら他人の部屋っすよ? 自分が上がり込んどいてダメ出しするって相当すよ」

「……そーか、エージは潔癖とか神経質の気があるのか」

「そーいや前に、業者じゃない人間がトイレットペーパーを三角に折り畳むなっつって怒ってたっす」

「あー」


 小舅の目が黒いうちは俺の部屋の環境も整えざるを得ないだろうからそこまでの堕落はないなと先輩たちに励まされ、この件は一段落。

 うん、確かにエイジを家に上げるときの掃除も最初の頃よりゆるくなって来てるから、そろそろ初心に返らないと。


「あの、L先輩。L先輩が知ってる掃除法で、簡単そうなのを教えてもらえたら嬉しいんですけど……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る