あの頃の未来は今

 巷では就職活動がウンタラなどと言っているけど、そんなモンは解禁前に終わってる連中すらいるし、結局のところ騙し合い。

 それでも一応その中に身を投じた大学4年生としては、それらしく活動に向けた体勢を整えておいた方がいいんだろう。というワケでやって来た星港の中心街。

 いい加減に暑い。すっかり夏だ。梅雨に入るか入らないかくらいのこの時期は、日差しが貴重だとはわかっていても恨めしい。救いは、お目当ての店が目の前なこと。


りょうー! 久し振りじゃんねー!」

「ダイさん仕事中じゃないんですか」

「いーのいーの、ちょっとくらいなら」


 通信端末の販売店を覗くと、見知った顔が出迎える。働いてることは知ってたけど、こんなに手厚い歓迎を受けるとは思わなかった。

 このスタッフは水沢祐大みずさわゆうだいさん。向島大学を2年前に卒業して、現在は通信端末の販売員をしながら司会業やラジオパーソナリティーとして活躍中。

 俺が現役だった頃は向島との学校間交流も盛んで、この2校で技術講習会なんかが行われていた。俺もダイさんたち向島の先輩には良くしてもらっていた。


「涼お前FMむかいじまのコンテストでいいトコまで行ったらしいじゃんね」

「余計な事考えなかったのが良かったんじゃないですか」

「お前らしーわ。ほらこれ新しいタブ見てよ、準グランプリ広瀬涼。表示早いっしょ」

「俺の準グラよりも高崎の特別賞ですよ。前提として存在しなかった賞が作られたっていう事実が」


 そういやそんなこともあった。確かに出来心で高崎を引き摺ってFMラジオ局のパーソナリティーコンテストに出たけど。賞を取ったからと言って、それで飯を食うわけでもなく。


「そんで何、機種変?」

「就活のあれこれでーっていうのは建前で、気分っすね。今の結構長く使ったし」

「あー、4年生だもんね。涼、お前どうよ。周りの4年の中じゃお前が一番要領悪いしお兄さん心配よ」

「あっでも実質終わってるんで」

「あっそう」

「そりゃマーとか麻里に比べたら要領悪いっすけど、マーが就活してる理由なんか下心ばっかじゃないすか。内々定いくつも持ってるクセに」

「綺麗なお姉さんを見て楽しんでるんでしょ、聞いてる」


 ちょうど今は店も閑散としている。普段はあまりこんなこともないそうだけど、何故か。積もる話に花を咲かせなさいよってことなのかもね、とダイさんは立ち話をやめようとしない。


「お前緑ヶ丘のサークルには顔出してんの?」

「いや、行ってないっす。咲良さくらは1回2回行ったみたいっすけど、俺がいると高崎がやりにくいだろうし」

「兄貴分ってのも大変ね。BJの顔っつーかメンツも立てつつよ」

「時期が時期だけに高崎も今は果林と五島を見守るのに忙しいと思うんすよね、対策委員の前委員長として」


 するとダイさんは時計をチラリと気にした素振りを見せ、この後の予定を聞いて来る。もうちょっとゆっくり話したくなっちゃったよねーと。

 それと言った予定もなかったから大丈夫っすと答えると、あと30分で上がるしそこのコーヒーショップで待っててくんないと指定される。

 今ではすっかり懐かしい。現役バリバリだった頃には打ち合わせでよく使った例のコーヒーショップ。きっと今でも現役生たちはここでインターフェイスのことを話し合っているのだろう。


「そんな改まった話すか」

「涼には直接関係ないし、聞いて得もしないし損もしない。だけど、それを知っているといつかどこかで役に立つかもしれないし、トラブルに巻き込まれるかもしれない。そんな話」

「ワケわかんないすね」

「俺、口は堅い方なんだけどね。王様の耳はロバの耳ーってやりたいこともあるのよ」

「じゃあ、先行って待ってます」

「ちょっと、機種変は?」

「急ぎでもないんでまた今度。今はそのロバの耳ーって話が気になるんで」

「あっそう。お前らしいわその切り替えの早さ」

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