半年走破の下準備

公式学年+1年


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 緑ヶ丘大学社会学部メディア文化学科・佐藤ゼミでは、半年ほどをかけて30分間のラジオ番組を制作するという課題がある。これは班ごとの課題で、この班で一緒になった人とは何となく付き合いが続いていく物らしい。

 班に分かれてテーマを決めて、フィールドワークで番組の素材を集めてこなければならない。街頭インタビューや調査で得た素材を分析、解釈して自分たちなりに社会学的な番組に構成した上で収録から編集までを行うのだ。


「そういうことだからね、君たち~、計画性を持ってやってちょうだいね」


 テキストを読み解く座学の合間に行われる打ち合わせ。とりあえずテーマは決まったけど、フィールドワークに出るにはいつ、どこで、誰に対して何をどのように聞いていくのかを決めなくてはいけない。

 俺がいる3班は佐竹さんを班長に、あとは鵠さんと安曇野さんの4人編成。何となくだけど、俺は終盤の収録と編集部分で本気を出してくれという流れになっている気がする。学術的な部分よりそっちの方が実際得意だからいいんだけど。


「フィールドワークなー。その辺歩いてる人テキトーに捕まえて話聞くみたいなことじゃん? 都会の人間がそうそう立ち止まるかっつー話じゃん?」

「あー、ワケわかんないアンケートとか声かけられたら腹立つし!」

「そうじゃんな」

「って言うか鵠沼クン光洋出身でしょ? あっちの方が都会なんじゃないの?」

「いや、俺が住んでたのはビルが立ち並んでるいかにもな都会じゃなくて海の方。どっちかっつーと観光地じゃんな」

「へー。あっじゃあ高木クンは? 紅社も結構な都会だし」

「それでもやっぱり星港の方が都会だと思うよ。言っても三大都市圏だし。それにこういうのは地域性もあるだろうからね」


 フィールドワークをどうしようという作戦会議は、本来詰めるべき内容よりもどうやって人に話しかけようかという方が先に来ていた。どうすれば怪しまれずに話を聞いてもらえるか、話を聞かせてもらえるか。これが結構難しい。


「そもそもの前提として俺は人見知りだし、人に話しかけるのはちょっと怖いよね」

「高木お前人見知りか」

「うん」

「うーん、鵠沼クンと唯香さんが厳ついし、見た目普通の高木クンにインタビュー頑張ってもらおうと思ってたけど。コミュ力的にやっぱ鵠沼クンかー」

「佐竹お前ナチュラルにとんでもねーこと言ってんな」

「確かにゆるふわ大学生っぽい服は持ってないけど、案外アタシみたいなのが場所によっちゃドンピシャだったりするよ由香里さん」


 すると、各班を見回っていた先生がやってきて、机の上にコトッと何やら四角い物を置く。それをよく見ると、ICレコーダーと書かれている。もしかしてこれを使ってフィールドワークの素材を集めろということなのか。


「君たち~、これ機材ね」

「はーい」

「君たちの班は高木君がいるから心配してないけど、使い方は説明書を読んでちょうだい。結構いい値段するから落としたり濡らさないように気をつけなさいね」


 その箱を手にして開けてみる。中から出てきたのは確かにちゃっちくない立派なレコーダー。操作自体はボタンを押すだけっぽいけど、どうせならフルに使いたい。説明書を読まなくちゃ。


「おーい、おーい高木、戻ってこーい」

「ちょっと待ってこの項目だけ読ませて」

「唯香さん、説明書没収」

「高木! 話聞けし!」

「ああっ」

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