すぐ読める 「直感」純文学
古びた町の本屋さん
Section1 花嫁と僕
「こんなに遠い場所まで来ちゃったね」
雫(しずく)はそんな言葉を、白い息と一緒に吐き出した。
「……ああ、そうだな」
冷静でいたい。そう思うけれど、今はとてもそんな状況ではない。
*
花嫁を連れ去るなんて、ドラマの中だけの話だと思っていた。
しかしそれはドラマの中だけの話なんかではなく、今実際に、目の前で起きている事象が、まさにそれと等しい。
「ちょっと寒いね」
吐く息が白い。
この先、僕たちはどうしたらいいのだろうか?
「どうしようか?……この後」
彼女はあまりにもちょうどいいタイミングでその質問を僕に投げる。
……どうするべきだろうか。彼女の真っ白なドレスの裾は泥が付いて、汚れてしまった。
「今は考えられない」
あまりにも無責任な答えだった。だけど、それが正直な答えでもあった。僕が彼女を式場から連れ出したあの時のように、とても自分勝手で、とても素直な、そんな気持ちを込めた言葉だった。
「うん、……分からない」
彼女は僕の言葉にそのように答え「でも、なんだか大丈夫な気がするよ」と言葉を付け足すのだった。
僕たちはどこまで来てしまったのだろう。
分からない。分からないけれど、僕も彼女と同じで、なんだか大丈夫な気がしていたのだ。
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