第2話
部屋のベルが鳴ると、僕は家の中を一人でぐるぐる回るのを止め、すぐさま玄関に向かって走り始めた。
ドアスコープを覗くと、緑色の服を着た宅配業者が巨大な箱とともに、部屋の主である僕が出てくるのを待っている。
それを確認した僕は、満面の笑みを浮かべ、すぐさま扉を開けた。
「こちら、田尾 大介(たお だいすけ)さんのお宅で間違いないでしょうか?」
「はい!」
「ではこちら、お届け物になりますので、ご署名をお願いいたします」
手渡された書類にペンを走らせ、僕は自分の名前を記入する。待ちに待ったモノが届いた喜びで、ただでさえ手書きの文字が汚いと会社で言われている僕の字が、まるでミミズが這いつくばっているような字になる。だが、どれだけ汚かろうが、署名は署名。僕は急いで書き終えた書類を、宅配業者に返した。
「ありがとうございます。ではこちら、お届け物になります」
僕が直径二メートル程はあるダンボールをどうにか部屋に入れる間に、宅配業者は書類に僕の名前が記載されていることを確認している。家の近くに蜂の巣があるので、宅配業者の彼は通りかかったミツバチを見て、ぎょっとした顔をした。
それ以外は特に問題はなかったようで、宅配業者は帽子を取って僕に一礼する。
「それでは、失礼します」
「ご苦労様でした」
過ぎ去る彼を言葉だけで見送ると、僕はすぐさまダンボールを開けるため、カッターを手にする。中身を傷付けないように、ダンボールが開かないよう貼られているガムテープへ、慎重に切れ目を入れていく。手を動かしながら、額からじわりと、汗がにじみ出てくるのを感じた。
間違っても、ダンボールの中身を傷付けるようなことがあってはならない。この中身は、僕の夢が詰まっているのだから。
やがてガムテープという拘束具からダンボールは開放され、その中身を白昼にさらした。
中に入っていたのは、一人の少女。
メイド服に身を包んだ彼女の肌は初雪のように美しく、ダンボールのフタが開いたため、月光のような彼女の銀髪が、甘い香りとともにふわりと宙に舞った。
人間離れした彼女の美貌に、僕は一瞬、時を忘れる。比喩抜きに、彼女は人間離れしていた。
それはある意味当然のことで、人間が郵便物で届けられるわけがない。そう、彼女は人間ではなくロボット、アンドロイドなのだ。
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