「ちょっと、怒りすぎちゃった、の」

「いや、ちょうどいいくらいじゃねぇの」

「でも、気失っちゃった、し」

「むしろ控えめくらいだっての」


 殺されかけたにしたら。

 そう呟くティオヴァルトの表情は晴れ晴れとはいかないものの、凪いでいた。


 咲也子の言葉と同時に気を失ってしまったアーシュを運びながら、咲也子には知られないように腹パンを食らわせたからだ。

 まあ、あの死刑宣告にも似た雰囲気の中心に立たされたことに関しては同情をするが。


「うちのティオが、ごめんなさい、ね」

「ううん、お嬢ちゃんは気にすることないにゃ。むしろ、怖くなかったにゃ?」


 生徒たちを見まわってくると言い残して出て行ったリーダーが、ティオバルトに抱えられて。気絶して帰ってきたのをみてサーニャはあわてていたが、咲也子が着替えようとしていたところに出くわしてティオヴァルトが気絶させたと言ったらすぐに冷めた視線に変わった。

 すぐに咲也子を気遣うあたり、新米リーダーはまだ信用が足りないらしい。


 咲也子とティオヴァルトが6種の薬草を気絶したアーシュにかわりサーニャに提出し合格をもらったころには、続々と冒険者候補生たちは戻ってきていた。

 ちなみに、1番だったご褒美にと手渡されたのはかわいらしい包みの飴玉だった。


 咲也子は嬉しそうにほわほわと花を舞わせ、ティオヴァルトはチッと舌打ちする様子にサーニャは苦笑いしていた。


「やる」

「ありが、とー」


 咲也子はいそいそとティオヴァルトにもらった飴玉をウエストポーチの中にしまった。


「みんな、今日はお疲れさまでした! 全員薬草、持ってこれるなんて今年の冒険者候補生はみんな優良株にゃ! チームワークもきちんととれてたしね! みんな今日はゆっくり休んで、いい冒険者になるんにゃよ!」

「「「はーい!」」」

「は、い」


 全員がそろったところで挨拶をして、今日の冒険者スクールは終了した。

 他の冒険者候補生たちとおなじように声をあげてあいさつすると、咲也子はティオヴァルトに抱きかかえるようにねだった。もう疲れたらしい。

 

 抱えるとふくーと息をついて全身の力を抜いた咲也子に、カードに入ったひんがお疲れさま、とでもいうように小さく震えた。いつでも気遣いを忘れないかわいいテスターに、咲也子はカードをひとなでして感謝を伝えた。


「いつまで寝てるにゃ! とっとと起きなさい!」

「痛って!?」


 結局アーシュは起きるようにサーニャにひっぱたかれるまで、気絶したままだった。



 レンガ造りの家々を背景に、不揃いのテントが立ち並ぶ中を歩く。腕に抱えた咲也子の重さがちょうどよかった。人の声騒がしいそこを人波に流されるように歩いて止まり木へと向かう。

 冒険者スクールが終了したときには日が傾きかけていたが、現在はもうほぼ沈んでしまっていた。テントのオレンジがかった明るいライトがメインストリートを照らしていて、どこか人の心を温めて一息つかせた。


「ひんを、よろしく、ね・・・」

「いや、今生の別れみたいに言うなよ」


 夕飯をとろうとしたが、咲也子は寝てしまったため、部屋に置いてきた。

 最後の力を振り絞りながらひんをティオヴァルトに託す様子は、さながらもう会えない我が子に別れを伝えるような情感をたっぷりと出していた。


「ご飯の後は、自由行動、ね」


 最後にそれだけを伝えて、咲也子の意識は深い眠りの底へと落ちて行った。

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