あれから、常識であることをわざわざ尋ねてくる咲也子に、疑問に思いながらもティオヴァルトは答えていた。


「革命戦っ、て?」

「100年くらい前にあった戦争だ。今じゃ傾国なんて呼ばれてるくらい優秀な魔道具師がいて、そいつやその弟子たちを取り合うために各大陸の王が戦争をおっぱじめたんだ。」

「戦、争」

「ああ。その戦争をやめさせるために兵士たちが反乱を起こして、現在では王政じゃなくて、貴族院による統治が行われてるんだよ。ちなみに、そん時に大勢の魔道具師が巻き添え食らって死んじまったから革命前は庶民でも手に入ってた魔道具が、今じゃお貴族様しか手に入んないようになってる」

「神、殿?」

「キメラが祀られているところだ。あー・・・あんた、えーと。あんたが祀られているところで間違いない。加護持ちの多く・・・というかほとんどはここにいる。保護されてる。ここ以外に加護持ちがいるとなれば、だいたい後ろ暗いことの片棒担がされてると思って間違いねぇな。ま、神殿公認で外に出て活動してんのもいるらしいけど、片手程だって聞いたな。各大陸にあるけど、総本山はこの大陸にある主神殿だ」

「君、詳しい、ね。先、生?」

「これくらいは冒険者スクールで誰でも知ってんぞ」


 どうやら常識だったらしい。

 ちなみに冒険者スクールについて聞いてみると成人として15歳に冒険者となり外に出される前に必ず5年間は常識を学ぶ場として、卒業試験に受かることが冒険者の必須条件らしい。


 お茶うけに出していたクッキーをさくさくかじりながらすごくいい制度だなと思い、今度行ってみたいなと咲也子は思った。よく聞いてみると1日体験コースもあったなとティオヴァルトが呟いたので、絶対に行こうと決意した。


 ただし、止まり木でも試験は受けられるらしいので、冒険者になってから行こうと思った。情報って大事だと思う。本当に。【白紙の魔導書】の知識だけでもいけるかなと思っていたが、100年間の更新がないというブランクは思ったより大きかったらしい。        

 

 呆れた目で内心戦々恐々としている咲也子を見るティオヴァルトはティーカップに入ったぬるくなりつつある紅茶を一気にあおる。咲也子にクッキーの乗った皿を差し出され、一枚とって口に放り込む。バターの濃厚さと混ぜてあるジャムだろうか、酸っぱさが美味しかった。


「あんた、テスター持ってるってことはアリーナに挑戦するのか?」

「・・・アリー、ナ?」

「・・・。アリーナは、テイカーたちが実力を測るために挑戦するところで、冒険者なら必ず一度は挑戦するところだ」

「どこにある、の?」

「各大陸ごとによって違うらしいが、ここには7つだな。全部の証を手に入れるとアリーナチャンピオンに挑戦できるらしい」

「チャンピオ、ン?」

「今のチャンピオンは確かアザレア大陸のツキヒとかいう名前だった気がするが」


 ぴくりと咲也子の小さな肩がはねる。まず冒険者になりたいんです、と咲也子は言いたかった。何も知らない様子と、その無言の姿勢から、ティオヴァルトは何かを悟ったらしい。


「まさかとは思うが、スクール通ってないのか・・・?」

「・・・キメラが通っているとで、も?」

「あー・・・」


 ひどく気まずい空気になった。

 咲也子は肩を落とし、ティオヴァルトはいたたまれなさそうに目をそらす。

 キメラは神殿では祀られ崇められる存在であって、それがどうして人間の子に混じって楽しくスクールに通っていると思えるのか咲也子は若干弱切れしていた。逆切れではなく。     


 そもそも、冒険者に推薦さえしてもらえれば冒険者になれると思っていたわけで。こんなところに大穴があって落ちるとは思っていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る