第21話 訓練と逃走と
ヤタガラスの本部を出た後ロータスとアリスは待ちで宿をとって休むとのことなので別れた。
寝る時間を考えればプレイできるのはゲーム内時間で明後日までといったところだろう、結構余裕がある。
何をしようか……。
考えているとふと腰に下げているレイピアの存在を思い出した。
フレーバーテキストを見たところそこそこの性能っぽいけど今まで一度も使ったことがない(というより実戦で使えない)のだがせっかくあるものを使えないというのも勿体ない。
何処かで訓練ができればいいのだが……ということで自警団の訓練所を訪ねてみた。
のだが
「申し訳ございません、レイピアの訓練が出来る者は今日は居ないので後日お越しください」
「そうですか、ありがとうございます」
ふむ、やはり夜間だと訓練員自体がいないのか……他はヤタガラスの訓練所かコルヴォさんか。
取り敢えずコルヴォさんを訪ねてみよう。
そもそもコルヴォさんってレイピアの訓練とかできるのかな?まぁ出来なかったら出来なかったでヤタガラスの訓練所を訪ねればいいのだ。
ということで早速コルヴォさんの隠れている廃屋へ。
何時もの様にドアをノックするとコルヴォさんは直ぐにドアののぞき窓からこちらを確認して一言
「入れ」
とドアを開けてくれた。
どうやら武器の手入れ中だったらしく部屋の中には手入れ用の道具と幾つかの武器が並べられていた。
並べられている武器の中にはレイピアもあるのでレイピアの訓練も問題なさそうだ。
「それで、今日は何の用だ?」
椅子に腰かけてナイフを砥石で研ぎながら問いかけてくるコルヴォさん。
「レイピアの使い方を教えて欲しいんですけど」
「レイピアか……ふむ、ここ最近はあまり使っていないのだが初心者に教えるくらいは出来るか……いいだろう、かわりにこっちの頼みも聞いてもらうぞ?」
「ええ、僕にできる事なら」
ということで無事レイピアの訓練をしてもらえることに。
まずレイピアの持ち方から教わる。
レイピアは刺突に向いた細い形状から軽いと思われがちだが実は見た目よりも重く標準的なものでもブロードソードやロングソードと同じくらいの重さなのだ。
手の甲を上にして指鐶に指を通して柄頭をが手首に下から押し上がるようにして持つことで握る指を支点に手首を作用点としてそんな重い剣先を水平に保つことができる。
そして構え、上体はまっすぐに、右足を前、左足を後ろにして肩幅に開き前の足は相手に向けてまっすぐに後ろ足はそれに対して真横か少し斜めぐらいで開く。
膝は少し強めにまげて足の裏は全体を地面にしっかりと付ける。
右手は軽くひじをまげて切っ先を相手の喉元にむける。
左手は防御用にナイフか無ければレイピアの鞘を持つかそれもなければ左腕を顔の前に立てて左腕を犠牲にして急所をを守る。
そして基本的な足運びや振り方を教わりながら間合いについても教えられる。
ステップはフェンシングのようにリズミカルなものではないようだ、ステップの着地は必ず踵からで歩くときの動作と同様にさらに前へと踏み込むための動きになる。
レイピアの有効な間合いは僕が持っている物で125cm程、左手にナイフを持っているので体の左側50cmほどのレイピアでは対処できない場所も有効な間合いとなるそうだ。
そして実際に攻撃や防御のしかたを教わる。
レイピアでの攻撃は刺突が主体となるため基本的に攻撃した直後は間合いが一気に縮まる、そこからレイピアの有効な間合いまで後退したり左手のダガーでの攻撃に移ったりと場合によっては空いている左手で殴ったり引き倒したりと優雅なイメージとは結構かけ離れた戦い方になるようだ。
一通り教わって思ったのは防御が主体の武器なのだろうということだ、復讐者のスキルと相性がいいともいえるのでそれはそれでいいのだけど。
そんなこんなで訓練が終わり空を見ると太陽が昇り始めていた。
やけに熱く感じる太陽に一つため息を吐いてコートのフードを被るとコルヴォさんに礼を言う。
「吸血鬼というのもなかなか不便な生き物だな……さて頼みの方だが」
笑いながら言うコルヴォさんの言葉でふとそういえばまだ頼みの内容を聞いてなかったと思い出したのだが訓練の前に内容を聞くべきだったと思うのはもう少し後になっての事だった。
「……さて頼みの方だが」
そうコルヴォさんが口にした瞬間自動迎撃が発動した。
もちろん目の前のコルヴォさんが攻撃してきたわけではない、ならば左右か後ろからの攻撃だ。
そう判断しつつコルヴォさんに覆いかぶさるようにしてその場に伏せる。
直後に弾丸が僕の左腕を掠めて数発が近くの地面を穿つ。
直ぐに立ち上がり弾丸を避けるために身を低くしたままコルヴォさんが隠れ家にしている建物の中へと逃げ込む。
「相手に心当たりは?」
中に入るなり直ぐに荷物を纏めるコルヴォさんに机やいすで入口のドアを塞ぎながら尋ねる。
「追手だ、それで頼みの方だが、奴らから逃げるために時間を稼いでほしい予想より早く見つかったがまぁ問題ないだろう」
「え?」
今なんて言った?
「この家に残っている武器は好きに使って構わん、20分も引き付けてくれれば十分だ、じゃあ後は任せたぞ」
「は?」
困惑する僕を置いてそそくさと裏口から出ていくコルヴォさん。
慌てて裏口へ向かうと出てすぐの場所にあるマンホールへと降りていくコルヴォさんが見えた。
直後にマンホールから爆発、後に残ったのは崩落した下水道これでは追手も後を追うことはできない、そして僕もここからは逃げられない……。
呆然としていると追手の者たち声が聞こえてくる。
「なんだ!?」
「裏側からだ!!」
「くそっ!!逃がすな!!」
やばい、取り敢えず中に戻ろう。
追手の連中はまだ裏手の爆発に気を取られているので少しの間はこの家の中に入っては来ないだろう。
コルヴォさんが残していった武器を確認しつつアイテムパックに仕舞う。
レイピアやロングソードに刀等の刀剣類とナイフが数本、銃火器は拳銃とパーカッションロック式のライフルに……これはショットガンだろうか?
気になったので詳細を見てみる。
水平2連ショットガン:
出自不明の元折式の水平2連ショットガン、銃身に絞りがなく拡散が激しいため遠距離への射撃には不向きだが銃器の扱いに長けていない者でも近距離ならある程度の命中率を確保できる。
専用の紙薬莢弾薬を使用する。
トリガーが両引きの為連射には習熟を要する。
サイドロック式で撃鉄バネが故障した際の交換が容易。
よくわからないが武器補正がなくても近距離で打てば当たるということだろう。
だが弾の込め方も分からないので今すぐ実戦で使うという訳にもいかない、取り敢えずこれもアイテムパックに直行だ。
それから大量の工作部品と爆薬が数キロ、罠師のスキルで作れる物が頭に浮かんでくるので手始めに玄関と裏口のドアに爆薬を仕掛けつつこの状況で使えそうなものを考える。
5分ほどかけて建物の1階部分を罠だらけにした後僕2階の窓から外の様子を窺う。
「……」
窓から見える光景に思わず息をのんだ。
コルヴォさんの追手と思われる連中がこの廃屋の周囲を固めているのだが、その人数が予想以上に多かった。
というか多すぎだ、精々10人程度かと思っていたのだが、家の周囲をには見えるだけでも30人は居る。
どこの組織の者かは知らないがコルヴォさんは相当な恨みを買っているようだ。
ていうかこれ引き付けるどころか速攻で殺されそうなんだけど!?
2階の窓から周囲を確認した直後コルヴォさんの追手が廃屋の中に侵入してきた。
仕掛けた罠が作動したのはよかったのだが、どうやら張り切って大量に仕掛けたのが良くなかったようだ。
動作した罠の爆発は周囲の罠の爆薬を誘爆させて1階部分が吹き飛んだ、気が付いた時には不思議なことに2階建ての廃屋が1階建てになっていた。
そして何とか廃屋から脱出して気付かれないように路地裏へと逃げ込むと……目の前にはコルヴォさんの追手が居た。
数秒ほど時が止まったかのような沈黙が流れる。
沈黙に耐えきれなくなり口を開く。
「あ、どうもこんにちは……」
どうだこの完璧な対応、やはりまずは挨拶だ、何事も挨拶が
「……居たぞ!!」
「ですよねー」
やっぱり駄目だった。
こうして数十人の銃撃から逃げつつ閉鎖された工場まで逃げて来たのだ。。
視界の端に映る体力ゲージは残り3割程、アンデットポーションを飲み体力の回復を図る。
ちらりと向こう側の様子を窺おうとした瞬間目の前で柱の一部がはじけ飛び思わず顔を引っ込める。
今のはタイミングが良すぎたが相手は別にこちらが顔を出す瞬間を狙って打ったわけではない、その証拠に今も僕が身を隠している鉄製の柱は何十発もの弾丸に撃たれてガタガタとその振動を僕の身に伝えている。
コルヴォさんと別れてから20分以上たっている、僕の役目は十分すぎるほどに果たしているので逃げてもいい、というか逃げたいのだが、逃げようにも逃げられない。
ため息を吐きながら天井を見上げてふと策を思いつく。
スキル【絶影】自分でもついさっきまで存在を軽く忘れかけていたスキルだ。
絶影は重力を無効化して壁や天井を歩くことができるようになり副次効果として跳躍や移動スピードにも僅かに補正がかかるスキルだ、そして前に洞窟の天井を飛び跳ねて遊んでいたときにわかったのだがこのスキルには自分の指定した足場か向きに落ちる・・・という特性がある。
説明には重力の無効化とは書いているがイメージ的には重力の方向と強さを変化させるという感じだ。
つまり使い方によっては空中を移動したり跳躍中の方向転換も可能と言うことだ、最も自由に動き回るには高速での細かな調整操作が必要になるので難易度的にかなり難しいものだが。
この状況ならいけると判断して僕は天井に向かって落ちた。
工場の天井にトンっと音を立てて降り立つ。
同時に自動迎撃を使用しておく。
一瞬天井に蝙蝠のように立つ僕を見た追手たちがポカーンと口を開けて銃撃の手を止める。
「馬鹿野郎!!さっさと殺せ!!」
僕が高窓に向かって天井を走り出すと最初に立ち直ったリーダー格と思われる者が周囲の者に叫びながら銃撃を再開した。
その射撃で自動迎撃の効果が発動する。
加速した思考で直ぐに進行方向とは逆の壁に落ちるように絶影の効果を操作する。
弾丸は僕が直前までいた場所を通って天井に穴を穿つ、遅れて射撃を再開した者たちの弾丸も絶影で落ちる方向を細かく調節しつつ避けていく。
自動迎撃の効果中だからこそ出来ることだ効果が途切れればその時点でハチの巣にされるだろう。
自動迎撃を切らさないように効果終了と同時にノータイムで発動し続ける。
そしてちょこまかと弾丸を避けながら一度高窓に着地しようとした瞬間
パリンッ
そのまま窓を突き破って工場の外へと飛び出す僕、そして絶影の効果は足場がなくてもその方向に向かって落ちる。
こうして僕は追手を振り切ることに成功したのだった……。
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