第23話 長い夜

 部屋は沢山あったから、一人一室で眠る事になった。コージャスタスとアイルは、一緒の部屋で良いと言って、早々に部屋にこもったけど。もう夜這いされないだろうから、枕を高くして眠れるってものだろう。

 問題は、私だった。今も、クリステが色っぽい流し目を送ってくる。よく見ると、目元にほくろがあるのだな。そんな事を発見して、ぱっと私は目を逸らした。ウインクされたからだ。えーい、私にはその趣味はないというのに!

 ディレミーンと同じ部屋にして貰おうかと思ったが、ベッドは一つしかないという。恋人じゃないんだから、一つのベッドで眠る訳にはいかない。かといってコニーじゃ、貞操の危機は変わらない。よし!

「プラミス、一緒の部屋で眠ってくれないか?」

「わしか? 良いが、寝相は良くないぞ」

 貞操の危機に比べたら、安いもんだ。

「ああ、構わない。頼む」

「分かった」

「ちょっと、ゴースト! そのドワーフとどういう関係!?」

 早速クリステが噛み付いた。プラミスを睨み付けている。

「エルフは、ドワーフが嫌いなんじゃないの?」

 クリステが、プラミスが女だと気付いているかどうか分からなかったが、私はこの状況を利用しようと考えた。

「私は、ハーフエルフだ。ドワーフに対する偏見はない。プラミスは、私の恋人だ」

「いや、わしはおん……」

「恋人だよな! プラミス!」

 私がプラミスの手を握って必死にその目を覗き込むと、プラミスはようやくピンと来たようだった。くりくりした目をしばたたく。

「ああ……そうじゃ」

「プラミスとゴースト、ラヴラヴなんだもん!」

 クリステの行動力を恐れてか、コニーも援護射撃をする。

「愛しておるぞ、ゴースト」

 いいぞ、プラミス。

「そうだったのか!?」

 ディレミーンが律儀に驚いている。いや、ディレミーン、素直なのにも程があるぞ。

「じゃ、私たちもう寝るから!」

 何か言いたそうなクリステとディレミーンに背を向けて、私はプラミスの背をぐいぐい押して部屋に入ると、鍵を閉めた。良かった、鍵付いてる。


 ドスンッ。

「ぐえっ」

 もう何度目になるか、私は腹に蹴りを決められて目を覚ました。見ると、プラミスの短い足が、私の腹の上に乗っている。多少乱暴にプラミスの方にその足をリリースするが、イビキをかいているプラミスは、起きる気配はまるでない。

 宿屋のベッドは二~三人が一度に眠れるように広かったが、一人用の狭いベッドで眠ってみて、プラミスの寝相の悪さを思い知った。

「……目が冴えた」

 再び寝ようと目を瞑ったが、一向に眠気はやってこない。

 私は諦めて、もう一度湯浴みする為に一部屋に一つある個室に入って扉を閉めた。黒装束を脱ぎ捨てて、扉の外に放り出す。研究所の風呂は、神通力でお湯が雨のように降ってくる仕組みだった。桶での湯浴みと違って、ひどく気持ちいい。いつしか私は、いつもの鼻歌を歌いながら、深夜の風呂を楽しんでいた。

 ぴとっ。急に背中に、何かが張り付く。

「ひっ」

「ゴーストったら、良いプロポーション」

 ハートマークを散らした台詞の後に、キュッとウエストを掴まれる。

「ひぃぃいいい」

 私は咄嗟に胸を隠して身体を捻った。Gカップがはみ出そうなボディコンシャスな空色のオールインワン一枚のクリステが、目もハートマークにして入り口を塞ぐように立っていた。

「クリステ!? 鍵閉めた筈……」

「あら、あたしは魔法が使えるのよ? 忘れてた?」

 しっかり忘れてた。確か、鍵を開ける魔法っていうのがあった筈……。

「隠す事ないじゃない。女同士、背中の流しっこしましょ」

 石けんのついた手で、ぬるりと背中を摩られる。私は爆発的に大声を上げた。

「キャァァアアア、プラミス! プラミス!!」

「グー……んっ?」

 さすがのプラミスも、目を覚ましたようだった。

「プラミス、助けて! クリステが!!」

「むっ。クリステ、ゴーストを手篭めにする気か! 離れろ!」

 プラミスがベッドを下りて、ドスドスとこちらに走ってくる。ドワーフは力が強い。素手だったが拳を振り上げると、クリステは避けざるを得なかった。鈍い音を立てて、壁にプラミスの拳がめり込む。

「困ったわ、とんだ騎士ナイトね。契りを結べば、あたしの方がずっとイイ、、って分かるのに。貴方が心を開いてくれるまで、待つとするわ」

 そう言うと、クリステは自動で開く入り口の扉から出ていった。

「ゴースト、大丈夫か?」

 私は生まれて初めて腰を抜かして、へなへなと風呂場で座り込んだ。

「こっ……恐かった……」

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