TARGET4 超能力の使い方
「宇田川先輩の新パートナー、二条 未来です!」
大勢のギャラリーが集まる中、未来は高らかに宣言した。
呆気にとられた小柄な男、横島 大和は一瞬たじろぐが、再び高らかに笑う。
「ギャハハ!お前か、悪魔の新しい餌食は!」
悪魔、彼はまた先輩を悪魔と呼んだ。
彼が一体何をしたというのだ、私は無性に腹が立った。
「私は、宇田川先輩に何があったかなんて知りません、教えてくれませんし。すぐ怒るし横暴でわがままな先輩だけど…《今の先輩》は今にしかいないんです、過去に何があったなんて干渉する人間は器の小さい人間だ、という印象を受けます」
「おい小娘、口が過ぎんじゃねえか?」
ズイッと頭を近づけ、眉間にしわを寄せて睨みつける。
だが未来は一歩も引かないどころか、上から目線に一言を添えた。恐らく彼が一番言われたくない言葉だろう。
「小娘とは…私より小さい先輩が言うセリフですか?」
私の身長は160cm弱、横島はさらに小さい。
文字通りの上から目線に、横島の顔は徐々に怒りで顔が歪んでゆく。
「はぁ…」
後ろから隼人の溜息が聞こえたが、気にせず続けた。
「……お前、よっぽど死にたいらしいな」
案の定、かなり頭に血が昇ったようだ。もう少し煽って…と、そう思った矢先
「そこ、何をしている?」
ざわついていたその場は一気に静まり返り、一人の女性が制した。
紺色のスーツをまとい、純白の髪は肩甲骨が覆われるほどの長さで、それを縛るものはない。
両手を腰に当て、大きく威張るように上半身を軽く反り返らせる仕草さえ色気が感じられる、美しい女性だ。
「一般的に、しかも本部で能力者同士が私闘を繰り広げるなど、許されるとでも思っているのか?」
すかさず横島が口を開いた。
「俺達は《悪魔祓い》をしていただけなんです、そしたらこの女が突っかかってきて…」
女性がぐるりとその場を見渡し、生卵を被った隼人を見つけるなり、途端に目の色を変えた。
「はーくぅん!大丈夫ですか?痛くないですかぁ〜?」
「おい斬崎(きりさき)、こんな所でくっつくな…」
先程まで激怒していた女性と同一人物とは思えない甘えた声に、一同は唖然として動けない。
怒っていた私もついつい黙ってしまった。
「宇田川先輩…まさか、か、カノ…?」
「そんなわけあるか、こいつは斬崎(きりさき) 弥生(やよい)。道師のパートナーだ」
「えっあの道師さんの…?」
私の目を見ると、ニコッと笑って私へ近づいてくる。
「初めましてね、二条 未来さん。って言っても私はあなたを知っているけどね」
「は、初めまして…存じ上げずすいませんでした。」
「いいのよ、私はアキラくんの影だもの」
影?何かの比喩だろうか?
考えている暇はなく、話を遮られ苛立ちを増している横島が話を切り出す。
「斬崎さん、こいつ上司に向かって卑劣な態度を…処罰をご検討ください!」
再び彼女の表情は引き締まり、考えるように右手で顎を触る。
「ふむ…じゃあこうしましょう。横島 大和、二条 未来、サシで決闘なさい」
…え?という空気が本部の廊下へ漂った。
「ちょっと待ってください、さっき私闘は厳禁だと…」
「だから、ここは私が持ってあげるわ、模擬戦の許可を出します。 」
「マジですか…」
思わぬ勝負を取り付けられて、私は武者震いした。
ここ最近、気持ちよく戦闘をしていなかったので体を動かしたくてたまらなかったのだ、ここは斬崎さんの顔を借りて思い切りやらせてもらおう…!
「両者、異論は無いな?」
「俺はいいですが…相手になりますかね?俺は《A級能力者》ですよ?」
能力には、GSOの判定の元で5段階にランク付けされている。
下からD級、C、B、A…そして特級が存在する。
特級は日本に7人しかいない希少な人間達。
そしてA級は全体の僅か10%、いわばエリートの類に入る。
この序列が、能力者の強弱を決めることが多い。
しかし、体術、能力を操るセンス、武器使いによっては能力の階級以上に強い人間が存在するのもまた事実だ。
「ちなみにお前はいくつだ、小娘?」
懲りずにまた小娘と…相当頭悪いな、このお兄さん。
未来は何の躊躇も無く宣言した。
「私は…《C級》です」
「なっ…?」
隼人は目を見開いた、パートナーである彼女の能力を把握していなかったために、驚きは増して襲ってきた。
道師があれだけ推していた彼女が、C級?
あいつが節穴なのか、それとも…
「ぶっ…ぎゃーはっはっは!C級ごときがA級に勝とうってか?強がりにも程があるだろ!!」
余裕、彼のオーラには油断と自信に満ちている。
相当自分の腕前に提供があるのだろう。だがそんなことはどうでもいい、私は目の前の敵をすべて倒す。
私はそうやって、9年間過ごしてきたのだから。
「そうですか、では始めましょう」
何事も無かったかのように、未来は訓練室へ向かう。
「ちっ…見てろよ、泣いて喚いても許さねえからな…」
2人に引きずられるように、ギャラリーも訓練室へと足を運んだ。
☆
第一訓練室は様々な用途で使われるため、学校の体育館ほどの広さを誇る大きなフィールドだ。
ここなら思う存分、暴れることは可能となっている。
フィールドはフェンスに囲まれ、外には大人数のギャラリーが押し寄せている。
そんな中、隼人と弥生だけはさらに上のアナウンス室でまさに高みの見物をしている。
「いやっ…こんな狭い部屋ではーくんと2人きりなんて…アキラくんに怒られちゃう!」
「いいからさっさと進めろ」
「ちぇーっはーくんのいけず!」
弥生は頬を膨らませ、怒ったような仕草を見せるが、こちらをちらちらと見ているので大して怒っていないだろう。
弥生がマイクへ口を近づけてスイッチを入れ、小さく息を吸い込んでから声をあてる。
『それではこれより、横島 大和vs二条 未来の模擬戦を始める。両者準備を…』
「ピーピー泣いて惨めな姿晒しても知らねえからな?」
手に小さな電気の塊を作って脅してみせる。
なるほど、能力は《放電(スバーク)》といったところか。
未来も呼応し、ジャケットの内ポケットからハンドガンを取り出して構える。
『始め!!』
「能力者相手にハンドガンだと…どこまでなめたら気が済むんだよ!!」
怒号と同時に離れていた距離を一気に縮めようと走る。
まずは能力など使わずに戦ってみるとしよう。
「いきます!」
迷わずハンドガンを放つ。
細く淡い青色のレーザーが放たれ、一直線に横島へ走る。
「レーザーガンか…でもその程度で倒せると思うなよ?!」
すかさず電気を前に作り、弾き飛ばす。
「おや、意外とやるみたいですね」
「ハッ当然だ、お前とは場数が違うんだよ!」
30mほどあった2人の距離はあっという間に10mまで縮んだ。
「くっ…!」
「銃手(ガンナー)なんて距離詰めちまえば瞬殺だぜ!!」
右手から電気が収束された塊が飛んでくる。
咄嗟にレーザーガンで中心を打ち抜き、さらに直線上に横島めがけて飛ぶ。
「だから無駄っだつうの!」
先程と同じように防ぎ、ようやく距離は5mを切った。
「これで射程範囲だ…喰らえ!」
地面へ拳を勢いよく当てるが、特に何も起きない。
「…?あぶなっ!」
足下から雷鳴を轟かせて突き抜けてくる雷を未来は間一髪で躱す。
「今のが当たってたらまずかった…」
一方高みの見物をしていた隼人と弥生は、冷静に戦いを分析していた。
「まだバカは能力を使ってないな、様子を伺っている感じか…」
「名前で呼んであげなさいよ〜未来たそも喜ぶと思うわよ?」
「別に喜ばせたくない。それと弥生、あいつは本当に強いのか?」
「というと?」
席に腰掛け、肘をついて両手を頬にあて、楽しそうに笑う弥生へ目を向ける。
「さっきのあいつが言ってたC級ってのが本当なら、A級のあいつには敵わないんじゃないか?見たところ、あいつの武器だと近距離戦は好ましくない。それにあいつの能力は《戦いに向いた能力ではない》だろ?勝ち目など…」
「大半の人は、はーくんと同じことを言うだろうね、でも実は私知ってるの」
「いちいち勿体ぶらずに教えろ」
「アハハ、怒らないでよぉ〜
去年、彼女が通っていた養成学校で授業を見たことがあるの。実技授業だったんだけど彼女がどうだったか分かる?」
「さあ?」
「どんなに速い奴でも、大斧を軽々と振りかざす奴でも、まったく勝ち目を与えず他を圧倒していたわ。容赦なく、まるでお遊戯のように軽やかにね?」
「なんだと…?」
「あ、そろそろ使うみたいよ。彼女の本来の力をね?」
「おい、もういいだろ?そろそろ能力を使えよ、C級のしょべえ能力をよぉ!」
「促されてようやく出すのはシャクですが、いいでしょう…」
銃を下ろし、左手を目へ当てると小さく呟いた。
「《分析眼(アナライズアイ)》」
瞬間、彼女の瞳は混じりのない黒から光り輝く金色へと瞬く間に姿を変え、眩(くら)まない程度の弱い光を放つ。
「分析眼(アナライズアイ)?まさかただ遠くが見えるとかじゃねえよな?」
「まあ、だいたいそんな感じです。でもこれを発動してしまえば最後、ピーピー泣くのはあなたになりそうですよ?」
「減らず口を!!」
両手から雷が襲いかかるが、最小限の動きで両端をひらりと躱してみせる。
今のアクションだけで、相当な反射神経及び身体の柔軟性があると横島にも推察できた。
「ちっ…ならこれでどうだ?!」
「おや?」
未来の四方八方から雨雲が発生し、ゴロゴロと音を立てる。
「まずい、止めろ弥生!」
隼人が慌てて立ち上がるが、弥生はただ悠長に座り込んでいる。
「おい…」
「始まるわよ、あれが静岡GSO能力者養成学校の主席を奪い取った、鬼才の本当の姿よ」
「鬼才…主席だと…?」
ズバッと同時に雷が発生し、矢先を揃えて未来へ襲いかかる。
だが彼女の目にはまったく別の世界が広がっていた。
「座標確認、最短ルートを確保」
同時に落ちた雷はフィールドの地面を破壊し、僅かに煙を巻き上げる。
床に落ちていたのは、未来ではなく彼女のハンドガンのみ。
「そんな…今のを避けるだと?」
「先輩は大雑把すぎます。抜け穴はいっぱいありました、逃げ道を与えるなんて相当余裕なんですね〜…では、私が能力の使い方を教えて差し上げましょう…」
内ポケットからもう一丁のハンドガンを取り出し、人差し指でクルクルと回してみせる。
フィールドに返り咲いた鬼才は、もはや留まるところを知らない。
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