TARGET2 不器用な二人

「はぁ…」

「…」

「はぁ〜〜…」

「…」

「はうぁぁあ〜〜…あ」

「うるせえな、言いたいことがあるなら言え」

「お家に帰りたいです」

「今向かってるだろ?」

「実家の話ですよ!うわーーん!」

「ホントうるせえな…もう少しボリューム下げろよ」

不満を垂れ流す未来と、それをうざがる隼人はこれから共同生活をする家へと重い足を引きずっていた。

「あのヤロウ…何でこんなくそうるせえちんちくりんと組ませんだ」

「またちんちくりんって!もうすぐで16ですし、身長は平均より高いんですよ!!」

「分かったよ、じゃあまな板…って痛っ!!」

素早く反応し、隣の隼人へ容赦なく蹴りを入れる。

「もう少しデリカシーってものを学んでください!」

「わーったよ。ったく…」


歩いている途中、隼人はなにやらケータイを連打している。

「何してるんですか?」

「道師のヤロウ、電話に出ねえからメール送ってんだ…あと少しで50通だ」

「うわぁ本当にタチ悪い大人ですね」

「まあいいや。で、どうする?ホームヘルパーは?」


ホームヘルパーとは、私達のようにペアとして生活する上で、忙しいもしくは家事ができないという場合に代わりにやってくれる、いわば家政婦の方だ。

「そうですね…できれば雇いたいです。私も精神年齢お子様さんもこれから忙しくなりそうなので…」

「そりゃ誰の話だ?」

「あなた以外に誰がいるんですかぁ〜?」

「上等だ、今から息の根止めてやろうか?」

「えぇー…あ。」

ふと未来が思い出したように手を叩くと、威嚇する隼人の前にヨロヨロと倒れ込む。

「あ…おい?」

「ひどいよお兄ちゃん、こんな時間なのに私にご飯の一つも与えてくれないなんて…」

「おい、やめろ…人が見てんだろ」

未来のしょうもない寸劇に、道を歩いていた人々が足を止める。

「ああお腹が切なく鳴る…つらいよぉ…あ、あんなところにファミレスが!」

「誰がお前なんかに、てか俺は兄じゃn」

「ああ!お腹が!!」

(可哀想にねぇ…)

(ひどいな…)

道行く人々の痛々しい目線が隼人へ突き刺さる。

「〜っ…分かったよ!分かったから黙れ!!」

よっしゃあ!!とは口に出せず、心の中で大きくガッツポーズをしてみせる。


「やってくれたな…」

「いいじゃないですか、可愛い後輩に昼ごはんくらい奢ってくれたって!」

「調子に乗るな」

「ぎゃふっ!」

隼人の鋭いチョップが炸裂し、あまりの痛さに当てられた頭を自分で撫でる。

「いいか、俺はお前と仲良しするんじゃねえ、金のために働くだけだ」

「うわー…つまんない人生ですねぇ…」

「能力を持っちまった時点で、そうなる運命なんだよ」

「そうですかね?」

未来は頼んだフライドポテトを摘みながら答える。

「私は、自我がない頃から能力を持ってましたが、一度も不幸だと思ったことはありません」

「生まれつき…か、そっちのが楽かもな」

「そうでしょうか?」

「んなもん知るか、さっさと食うぞ。荷物がもう届いてるかもしんねえし」

「あ、ホームヘルパーさんは明日から来るそうです。どんな人でしょうねぇ?」

「俺が前いたとこには、住み込みで来てたな。バカっぽい男で」

「へえ…宇田川先輩って、嘘はつかないんですね〜」

「は?どういうことだ?」

「私には《見える》んです、人のオーラってやつが。先輩のオーラは酷くねじ曲がっていますが、色はとても澄んでいます。」

「そりゃどーも」

「じゃあお会計お願いしまーす♡」

「絶対お前のオーラは濁りきってると思う」


指定の住所へたどり着くと、そこには立派な一軒家が佇んでいた。

「てっきりアパートみたいなとこかと思ってました、組織も奮発しますね〜」

「能力者が集まって生活していると、色々と問題が発生するからな…2年前のニュースを覚えているか?」

「えっと…何かありましたっけ?」

「それもそうか、2年前まで組織の人間をマンションに集めていたんだが、そこが一般人による放火で全焼。そこに住んでた1/3の能力者が殺された…無惨な話だ」

「そんなことが…もしかして、宇田川先輩はそこにいたんですか…?」

「俺はこれ以上は喋らない、察しろ」

未来はハッとなって両手で口を塞ぐ。

「ふいまへん…」

「分かったらもう触れるな」

「…」

無愛想な顔をしているが、少しだけ悲しみに顔を歪めたように見えた。

オーラが見えると言っても、考えてることは分からないだけであって…

「荷物運ぶの手伝え」

「あ、はい!…ってこれ全部ですか?!」

「こっちは俺のだ、お前も手伝え」

「いやいやいや!こんなにたくさん何が入っているんですか?!」

積まれた荷物は身長の大きな隼人よりも高くそびえ立っている、とても運べる量じゃない!

「か弱い女の子にそんなことできません!」

「か弱いやつは自分でか弱いと言わない」

「私は自分のものしか運びません!!」

「ひでーな、こっちは腰痛めてんだよ…」

そう言って隼人は右手で腰を擦り、トントンと叩く。

「えっ…?それならそうと言ってくださいよ〜」

自分の荷物を運んだ後、気力と筋力を振り絞って隼人の荷物を2階の部屋へ運びきった。


「はぁ…はぁ…終わりました!」

「ご苦労、コーヒーでいいか?」

「わーい!お願いします!」

ここで、2階から隼人が軽々とダンボール箱を持ってきたことに異変を感じる。

「あれ?腰大丈夫なんですか?」

「あーあれ冗談、俺は至って健康だ」

…あれ?てことは私、騙された…?

「ちょっとぉー!あの量一人で運んだんですよ!!酷すぎやしませんか?!」

「だから、コーヒーで機嫌直してやろうと…」

「釣り合わない!分不相応です!!」

「いいだろ、お前のが若いんだから」

「若さ以前に私はレディーです!」

「ガールだろ?」

「レディー!!」

「レディーはそんなでけぇ声は出さねえよ」

「絶対私のことからかってますよね?!」

「別に〜」

「ぐぅぅ…!!」

未来の鋭すぎる視線を背中で受け止めながらコーヒー豆と専用器具を取り出す。

喫茶店などで見る本格的なセットだ。

「あら、インスタントではないんですね?」

「これくらい自分でできる、邪魔だからどいてろ」

「はーい…」


「そーいや、お前はどこの高校行くか決まってんのか?」

淹れたてのコーヒーの香りを楽しみながら、未来へ尋ねる。

「はい、ここです!」

部屋から取り出してきた高校のガイダンス資料を隼人の顔へ押し付ける。

「やめろ見えねえ…ってここかよ、俺の後輩になっちまうじゃねえか」

「本当ですか?全校3000人以上のマンモス校、渋谷第二高校ですよ!」

「俺もそこに派遣された、校舎が人だらけで暑苦しい」

「でも友達少ないですよね?てかいませんよね?」

「喧嘩売ってんのか?」

「わかり易くていいでしょう?」

「やかましい!」

「へぶっ?!」

隼人のカップの下にあったコースターを投げつけ、見事鼻先へ命中。


すっかり外は暗くなり、買出しから帰ってきた未来は巻いていたマフラーを畳んで玄関の端へ置く。

「おお、お疲れ」

「まったく…荷物運びの次は買出し、私はパシリじゃありませんよ!!」

「じゃんけんに負けたやつが何を言う?」

「ぐぬぬ…宇田川先輩は料理できますか?」

「あ?できるわけねえだろ」

「えっ…私もできませんけど…」

「…は?」

予想外の事態に2人は思わず顔を見合わせる。

「冗談だろ…?」

「本当です…寮生だったので料理はからきしで…包丁も握ったことないです」

「ポンコツかよ。しかしまずいな…できない2人で作れるもんって言ったら…カレーか?」

「食材は一通りあるので大丈夫です!それでいきましょう!」

一応決まりはしたが、不安を拭えないのは両者共にである。


「バカ!その持ち方絶対あぶねえだろ!!」

「どうやればいいんですか?!てかこれ怖いです!!」

「いいから貸せ!俺がやる!」

「先輩だってそれ絶対おかしいですよ!指ぶった切りますよ!」

「おい米が変な音出してんぞ、止めろ!」

「ぎゃー!焦げてるー!お米って焦げるんですか?!」

「いいから早くこっち来い、何か玉ねぎ切ってたら目が痛てえ!!」


数分後

誰もがこの異形の食べ物を見て最初はこう言うだろう。

「これって、カレーだよな?」

「だ、大丈夫です…カレーは誰が作っても美味しくなるようにできているんです…」

「…お前先食えよ」

「先輩が食べてくださいよ!」

「やだよ!こんな泥みてえなもん食うやつは勇者だわ!」

「やめてください!そんなこと言ったら余計に食べたくなくなります!!」

「何か、ガキが作った泥団子のが美味そうだな…」

「覚悟を決めましょう、せーので行きますよ…せーの!」

パクリ

カレーのようなものを1口だけ放り込むと、口の中ではまず焦げた米の風味が何とも言えない食感を誇り、荒く削った人参は火が通っておらずジャリジャリと音を立てる…

「今なら、宇田川先輩とシンクロできる気がします…」

「…初めて意見が合う気がする」


敢えて声には出さず、心の中で盛大に叫んだ

ホームヘルパーさん早く来て!!!!

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