12の奇跡は『アニマ』が導くっ!!   ~拾った猫が美少女に変身しました~

@Local

Episode-0.プロローグ

 



 とある春の日の夜、少年は夢を見た。




 少年の記憶によって作られた懐かしく、悲しい夢。




 その中では、現実世界と同じように桜が舞い散っていた。




ーーーーーー



 土手の街路樹として植えられた桜の木。



 ピンク色の可愛らしい花を散らしながら美しくその場に佇む姿を、二人の者が見上げていた。




「………いやぁ、桜はいつ見ても良いもんだなぁ。毎年毎年、綺麗な花を咲かせては散っていく………儚いものほど美しいとは、正にこの事だな」




 満開の桜をしみじみと見詰める、白衣の男は隣で共に眺めていたブレザー姿の少年に穏やかな笑顔を向けた。




達哉たつや、お前もそう思うだろ?」




 達哉と呼ばれた少年は、げんなりとした表情でため息を吐く。




「………佳祐けいすけ叔父さん、桜なんて毎日通学路で見てるよ。正直見飽きた」




 達哉の素っ気ない言葉に、達哉の叔父、佳祐はわざとらしく肩をすくめた。




「つれない奴だなぁ、少ない休憩時間を使って連れてきてやったというのに………」


「無理矢理連れてきた癖によく言うよ………で、俺に用があるんじゃないの?」




 達哉の促しに、佳祐は柔らかく頷いた。今まで桜の木の方向に向けていた体を達哉に向けると、ゆっくりと手を伸ばし出す。突然の行動にポカンとする達哉の頭に、佳祐は優しく手を置いた。


 久し振りに感じた叔父の温かさと、思春期の彼に存在する恥じらいとが合わさり、何とも言えない気持ちに陥る達哉。


 そんな彼を真っ直ぐと見詰めた佳祐は、微笑みながら話し始めた。




「達哉、これだけは覚えておいてくれ。こんな便利になったこの世界にも、まだ多くの謎が残ってる。それらの謎を見つけても、見ない振りをして放っておく人もいるし、必死に解き明かそうと努力する人もいる。

どちらが正しいかなんて誰にも分からないけど、お前には後者になってもらいたいんだ」




 真面目な表情で話す佳祐を見て、達哉は思わず息を呑む。


 あどけなく日々を過ごす彼の姿しか見ていなかった達哉は、えも言われぬ新鮮な気持ちを味わっていた。




「どんなことでもいい、お前が見つけた謎はお前の手で解明してやれ。その見返りは必ずお前に帰ってくる筈だ………『奇跡』として、な」




 奇跡




 その言葉を発する佳祐の顔が曇った瞬間を、達哉は見逃さなかった。何故そんな表情を見せたのか、達哉は理解しかねたが彼の伝えたかった想いは感じ取れていた。




「………分かった、約束するよ」




 その言葉と共ににっこりと微笑む達哉。


 その姿に満足したのか、佳祐は満面に喜色を湛えると、達哉の頭に乗せていた手を降ろした。




「そろそろ戻んないと。研究員達に怒られちまう」


「また無理言ってきたのか………迷惑かけるのもいい加減にしなよ?」




 佳祐はへいへい、と曖昧な返事で受け流すと、背中越しに手を降りながら桜並木を歩き出した。




「じゃあな、元気にしてろよ」




 凛とした美しさを見せる反面、何処か寂寥感を感じさせる彼の後ろ姿は、この街道に咲く桜の様であった。


 達哉は名残惜しさをその身に覚えつつも、自身の家の方向に歩を進める。








 静かなる日常の崩壊の音に、気付くことが出来ないまま………







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