第78話 試合を動かせ
勝手に応援しに来た教え子達の帰りの電車賃は出してやった。電車は西へ、俺たちのすみかに向かう。
車内には奇妙な空気が流れている。
うちのチームはもともとフランス人が多い。自然と人種による派閥が形成されたが、争いになることはなく常に平穏を保っていた。フランがいた頃は。
ククリの報告では、変な
フランはただ穏やかに元チームメートを眺めていた。
「攻撃は不規則的、がいいの?」
今度はククリ。
「DFの想定外のプレーが最も得点に近づく方法だ。同じプレーばかりしていちゃ駄目だ。様々なチャレンジをして困惑させろ」
「守備の方は? 事務的、だったか」
ランスが口を開く。こういう時に質問するのは主にフランの役目だったはずだが今日は少しおとなしい。
サングラスを掛けた大男が大勢の女子に囲まれ、電車の一画を占拠し、サッカーの話をしている様子は奇異で、衆目を集めている。ところが俺の教え子達はまったく気にする様子がない。俺よりメンタルが強いのかもしれない。
「逆に言えば。守る方の立場に立ってみると。やるべきことをしっかりやっていれば点はほぼ入らないってことだ。サッカーに於ける失点の多くの要因は守備側のミスにあると言える。
ボールを保持している方が主導権を握り、大抵ディフェンス側はオフェンス側の動向に対しリアクションしていく。ボールをどこに動かすかはオフェンス側に選択権がある。リトリートするとオフェンス側がディフェンス側を包囲する形になるのが普通だ。ディフェンス側は網の目が小さくなるよう、密集する。そうなるとどうしても視野では攻撃側が有利だ。
だが、ゲームを壊したいときは別だ。応用だがね。
このままでは負けてしまう、なんとしてもボールを奪わねばならない。そんなときには基本に忠実である必要はない。意表を突くような守備も時には必要だ。
例えば
だが駆け引きだ。相手が罠だと察知していれば裏を
「なんか数学みたいだ」
カットラスが変な顔をする。
「まったくだ」剣は苦笑した。「攻撃側はイレギュラー、不規則的な結果を求めるし、守備側はレギュラー、規則的な結果を求める。だから守備側はボールをつなぐのが難しい状況ではパスではなくクリアーという手段を
決定機の可能性がある」
「なるほど、一理ある……か」
指導員達は着替えを終えドレッシングルームを出た。
「技術はアレだが……ユニークだ」
「ヘンテコな言い回しの方が案外生徒の心に響くかもしれない。考えさせられるな」
「指導にも熱さがあったな。テニスだから、つい……」
「松岡修造……」
「そう! あんなイメージ」
「どうするんです?」
「何か、親善大使ぐらいにはできんものかね。捨て置くにはちょいと惜しい」
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