庭園の美



 フランケンシュタインの怪物が目を覚ますと、どこかの見知らぬ庭だった。

 怪物は庭園を踏破とうはするまで歩き続けた。夜が来て、朝が来て、それが何度くりかえされても、ここでは季節が移ろうことはない。この庭はとこしえに春なのか。まこと身も世も擬する影さえない。色とりどりの花が咲き、鳥はさえずり、枝々には種を越えた交合がしくももたらした、甘やかな罪の果実が、いつもたわわに実っていた。

 見聞きするすべてのものが珍しい。どうやら寝たからといって時間がなくなるものでもないとわかったが、もっぱら先を急ぐ休むことない探索の末に、怪物はやがて行為の限界を画す自らの現実を把握した。

 庭園は四方をコンクリートのへいで囲われていた。世界を区切る壁は木々のこずえのはるか上まで伸びている。さすがの彼も高すぎて登れない。最果てに達した絶望感。だが少し離れれば塀は低まり、遠くに雲のかかる青い峯々、夜になれば賑々にぎにぎしくもひそやかな蝙蝠こうもりの群れが外側からやってきて、罪深い果実を貪る。

 そしてすべては反復される。のどが渇いて水を求めると池に出会った。だが夜を徹して地面を掘っても底はなく、水脈も、塀の土台も見つからない。朝になれば蜂鳥はちどりの巣の元気な雛が騒ぎだす。雨上がりの空に虹が架かる。

 だがまさか、何と言う奇跡だろう。鬱蒼うっそうと茂る大木の根元。銭苔のびっしり生えた土饅頭どまんじゅう。眠る犬のかたわらに少女が立っていた。長い髪を波うたせ、ゆっくりと顔をあげる。

 彼はとっさに体を隠した。継ぎ接ぎだらけの肉体が恥ずかしかったのだ。確認するように覗き込む。少女の瞳には庭園のすべてが映り込んでいた。

 怪物はそこにはいない。

 永遠に時が凍りつく。

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