2014/9/16 Tue. - 2

 当たり前のようにゲームセンターを訪れれば、当たり前のように『レイディアントシルバーガン』をプレイする魔女がいた。当たり前のように、輝ける笑みを浮かべて。


 まるでループしているように、彼女は同じようにプレイして、同じようにクリアする。

 銀路もループしているように、七つ離れた『ゼビウス』の筐体の前でその姿を見守る。


 そうして、昨日と同じようにネームエントリーをして立ち上がる魔女。

 昨日と同じように、立ち去る姿を見送る銀路。


「あ……」


 繰り返しを意識しすぎたからであろうか。今日もそのまま帰るのを見送ってしまった。


 三度目も爆死。


 試行錯誤中には、同じミスを繰り返すこともある。明日は気をつければいい。

 反復する努力を厭わない銀路は、この程度ではめげないのだ。


 だからこそ、気づけた。


「そうだ、ネームエントリー!」


 魔女はクリアすると律儀に毎回ネームエントリーしていた。今日も確かに、そういう操作をしていたのをこの目で見ている。


 銀路は魔女が去った後の『レイディアントシルバーガン』の筐体へと歩み寄る。


 タイミングよく表示されたランキング画面。

 そのトップに表示されていたのは、


「OOO……なんだ、これ?」


 全てがアルファベットのOだった。面倒がってAAAと入れる人間は結構いるが、わざわざOを選んで三つ入力するのは何かしら意志があってやったことだろう。


 少しだけ、魔女のことを知ることができた。


 今は意味が解らなくとも、情報を得たことには違いない。アドベンチャーゲームやロールプレイングゲームだと、後々で何か意味を持つ伏線として機能するかもしれない。


 銀路は『OOO』という三文字を心に留める。


「せっかくだし、プレイしてみるか」


 攻略はまたの機会にするつもりだったが、何となくそんな気分になり、銀路は筐体前の椅子に座る。


「暖かい……」


 椅子には、まだわずかに魔女の熱が残っていた。確かに彼女がそこにいた証。

 レバーやボタンにも彼女の手の温もりが残っている気がする。


 気恥ずかしいが、嬉しくもあり表情が緩む。


 だが、ゲームとは真剣勝負だ。


 コインを投入し、1P開始ボタンを押したところで表情を引き締める。

 ゲームへと、全身全霊を以て挑む。


「やっぱり、ここまでか……」


 コインの後押しを受けて、なんとか自宅での最高記録と同じ最初のステージの五体目のボスに到達してゲームオーバー。


 魔女のスコアにはほど遠い不甲斐ないプレイだったにも関わらず、二位にランキングされた。


「GNJ、と」


 単に、毎日電源を切るたびにランキングがリセットされていて、今日二人目のプレイヤーが銀路だったというだけのことだろう。


 それでも、OOOとGNJが並んで表示されたことに、妙な嬉しさを感じていた。


 死んで覚える。


 OOOというランキングネームというわずかな情報だが、今日は確かに進展があった。


 小さな達成感を胸に、家路を辿る銀路の足取りは軽かった。

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