第43話 シチュー

 日もすっかり暮れ、村人たちもそのほとんどが自分の家に帰る時間に、俺たちはカメリアとリリーの家にお邪魔していた。

 家の中は生活感に溢れ、家具や内装も簡素ながらもすべて木製で宿よりよっぽどくつろぎやすい。

 台所からはシチューの美味しそうな匂いがする。


「ローリエさん、俺たちも手伝いますよ」


 料理を作っているのは2人の子どもの母親、ローリエさんだ。見た目はまさに田舎のお母さんといった風で、まだ30代らしく若々しい。


「そんな、悪いわ。あなたたちはお客さんなんだから座ってゆっくりしていて。そうだ、カメリアとリリーの相手をしてもらえると嬉しいわ」

「喜んで!」


 よっし、夕飯が完成するまであの2人の相手をしよう。

 ユキトはすでにリリーとおままごとごっこをして遊んでいる。慣れていないのかぎこちない様子で奥様役をしているユキトがリリーにダメだしされているのが非常に面白い。


「ソーマにい、剣術教えてくれ!」

「さっき散々やっただろ! 体だけじゃなくて頭の方も鍛えないとだめだぞ。俺が算数を教えてやろう」

「僕知ってるよ! 足し算とか引き算でしょ!」


 カメリアは10歳。元の世界では小学5、6年くらいか。それで足し算引き算だけというのはかなり遅れている。いや、こっちの世界ではこれが普通なのかもしれないな。


「そうかそうか。それはすごいな! じゃあ、もっと面白いやつやってみないか? かけ算とかわり算とか」

「何それ楽しそう! 教えて教えて!」


 さすが子ども。好奇心旺盛だ。勉強も楽しいと言っているし、こいつは将来大物になるかもしれないぞ。


「まずは九九からやろう!」


 その後、食事の席でカメリアは自慢げに九九の話をし、ローリエさんをビックリさせていた。

 シチューはこの村では貴重で、子どもたちは大喜びしていた。真心のこもったおもてなしは嬉しいのだが、無理をさせてしまい申し訳なくも思った。

 夕飯を食べ終わり、まだまだ遊ぼうよと言う子どもたちを振り切って俺たちは貸し家の戻る。

 さて、ここで恒例?の寝床問題である。


「毛布はあるし、俺は床で寝るよ」

「それはダメだ。恩人であるソーマを床で寝させるわけにはいかない。私が床で寝よう」

「いやいや、女の子を床に寝かせるわけには」

「では、ベッドを共有しよう。幸いサイズも大きいし2人で寝ても問題はないだろう」


 いやユキトさん。別の問題が発生するんですよええ。

 話すのはためらわれるが仕方ない。悲劇を避けるためだ。すまんティオ!


 俺とティオとの間に起こった数々の悲劇をユキトが話す。時々、破廉恥な! とか、そ、それは……! とか色んな意味で顔を赤くしながら言っていたが、さあ俺たちはどうしようか、という段階ですっかり黙りこんでしまった。


 何となく考えていることがわかるような気がする。一回言ったこと撤回するわけには……いやそもそも問題はそこではない。何か、何か解決方法はないのか!? とか、きっとそんな感じだろう。


「なあ、やっぱり俺が床で」

「いや、やはり2人で使うのが最も丸くおさまる。それにベッドだって大きいしきっと大丈夫だ」


 もじもじしているユキトさんを見るかぎり全然大丈夫そうではないけど、本人がいいって言ってるんだし、ベッドで寝させてもらうか。


 俺もユキトも治癒魔法を使ったとはいえまだまだケガは治っていない。昨日は固い洞穴の中で寝たせいか疲れもよくとれていなく、魔獣との戦闘、剣術指導ですっかり疲れてしまった。 そんな俺たちがすぐに眠りに落ちるのは当然のことだ。


 ふかふかなベッドで寝られて幸せを感じながら、おとなしく睡魔を受け入れる。


 朝の出来事については割愛しよう。でもこれだけは言っておく。ユキトさんは魔法発動の直前でけが人だからと踏みとどまってくれました。そして意外と朝が弱いことがわかった。

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