第30話 圧倒的な力
ティオだけでなく他の4人も、それぞれの契約竜の色に染まってゆく。
ギルは紅色、カイルは黒色、といった具合に。
「ソーマ、あんたは生き残ることだけを考えなさい。竜人化した相手に勝とうだなんて思わないで……ボーッとしてるけど大丈夫?」
「ああ、ごめんごめん、ティオがあまりに綺麗で見とれちまった」
「こんな時に何言ってるの! ……まあ嬉しいけど」
「ん?」
「とにかく、言ったからね。今回ばっかりはソーマの方を気にしてる余裕はないから、危なくなっても助けてあげられない」
まただ。またこの言葉を言わせてしまった。 少し強くなったところで、強い敵が現れたら、守られ、足を引っ張るだけしかできない俺に戻ってしまう。
いつか、ティオよりも、誰よりも強くなって。俺がティオを守ってやると、自信を持って言いたい。そのためには、今日を生き抜かなければ。
「ああ、大丈夫だ。自分の命を守ることぐらいは、できる。ティオに鍛えてもらったおかげだ」
「最初会ったときよりも、随分たくましくなったわね。……絶対、生き残りなさいよ。死んだら許さないんだから」
そう言ってティオは、俺の背中をバンッと叩いた。行動とは裏腹に、蒼く染まった瞳は不安げに揺れている。
「相棒を置いて死ねるかよ。元の世界に帰るためにもな」
今度は俺が、ティオの頭にポンっと手をのせる。
またティオに、親しい人間が突然いなくなる、なんてトラウマを植え付けるわけにはいかない。自分がトラウマになるほどティオの心の中にいるなんておこがましいことは考えていないけど、知り合いが死ぬのは寝覚めが悪くなるからな、うん。
見た目が変わったことによりいつもと違った印象のティオを眺める。守りたい、この笑顔、なんてね。
「さあさあ楽しい宴をはじめようぜぇえええ!」
「うむ。クリスティーナ王女殿下、もらい受ける」
全員がまず強化魔法を詠唱しだす。俺もそれに倣うが、きっと使ったところで……。
「隊長さんたち、あの赤い方は私がやるわ。2人はあの黒い方をお願い」
「了解した。かたじけない」
「了解しました。お気をつけて」
ティオは1人でギルと戦うらしい。カイルはほとんどの魔獣を失っているし、こちらの中で一番強いティオがギルを1人で相手取るのは妥当な判断だろう。
俺は隊長2人の邪魔をしないよう、サポートする。
「きゅい~」
メイルだ! 間に合って良かった。
ティオはすぐさまメイルに騎乗し、ギルの元へ飛んでゆく。
「カイル、どうやらティオ・マテリア殿が直々にお相手してくださるらしい。お前は下の騎士どもをさっさと片づけて王女をさらってこい」
「ええ~ギルっちがやるのかよ~楽しみにしてたのに~。ま、いっか。殺せれば」
カイルはそう言って契約竜から飛び降り、地上にいる俺たちの前に現れる。
上空では、すでに人と竜が行う戦闘とは思えない光景が広がっていた。まるで神々の戦争のような戦いだ。
ティオがよく使う「風神の
ギルの方はといえば、自らの周囲にいくつもの巨大な炎の環を出現させ、攻撃を完全に防いでいる。こちらも環の規模や量が半端ではなく、環を次々と形成しては防御に使ったり、飛ばして攻撃に使ったりしている。
契約竜たちも魔法を発動させ、主人を援護している。目でとらえるのが難しいスピードで飛び回りながら。
竜人化すると契約竜も強化されるのかもしれない。ティオは体の細胞の一部を竜の細胞に変えると言っていたけど、それはつまり竜ほどでないにしても自ら魔力を生成できる、ということだ。
竜人化のすさまじさを認識し、目の前のカイルと対峙する。
「さ、ちゃっちゃとお片づけして王女ちゃまをいただくとしましょうかね~」
「そうはさせんぞ! 貴様などすぐに屠ってくれよう!」
「あ~はいはい、そう言うのいいから。ごちゃごちゃ言ってないで始めようよ、隊長さん」
そう言い放ち、死神が持っているような大鎌、確かデスサイズっていう名前だったか。それを構えたかと思ったら、その姿がフッとかき消えた。
視線を周囲に走らせるが、あいつはすぐに現れた……第一部隊長の目の前に。
「ぬぅ!」
寸前で察知できたのか、大鎌を手にしていた大剣で受け止める。
間髪入れず第二部隊長が、これまた目にも留まらぬ速さでカイルに肉薄し、レイピアで突く。
「おおっとお、危ない危ない! でもこのスリルたまんないねぇ~」
神速の一撃を、鎌の柄で受け止める。斬撃などの線の攻撃ではなく、突き、点の攻撃を見切って受けるなんて、常人には到底無理だ。
ギルもあのティオと互角にやり合ってるし、やはりこの2人の強さは常軌を逸している。
俺も、せめて騎士隊長2人のために隙を作ろうと、攻撃魔法で援護する。
「――顕現せよ。契約に従い古より君臨する其の偉大なる力を我が元に――
はじめてこの魔法を使用したときは1本しか作り出せなかったこの剣も、今では5本作ることができるようになった。
5本の輝く剣は宙を舞い、カイルへと襲いかかる。
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