第18話 長い1日
うねる竜巻が、生成された銀の盾に触れた瞬間、その進路を反対方向へと変えた。盾は、竜巻を防ぐどころか跳ね返したのだ。
「これは予想外ね…顕現せよ――」
ティオは冷静に、先ほど自分が放ったものと同じ魔法を発動し相殺させる。
できた。できたぞ。防御魔法を発動させることができた。前回よりも発動に時間がかからなかったし、コツをつかめたような気がする。
「どうだ、ティオ! できたぞ!」
「ええ、すごいわ。こんな防御魔法見たことない。ふつう防御魔法は攻撃魔法をそらすか、打ち消すかぐらいなんだけど、まさか反射させるなんて」
反射系の魔法は珍しいのか。ゲームだと割と見かけるんだけど。
『私も竜魔法に詳しいわけじゃなくて、これが珍しいものかはわからないんだけど、ソーマが特殊なのは間違いないわね』
「おいリーサ、さっき俺の魔力借りてるとか言ってたけど、どういうことだ?」
『そのまんまよ。前の持ち主の魔力の残りでこの剣にとどまり続けてたんだけど、もう消えそう、ってときにあなたが現れたの。それで、2日前に魔法を使ったときに魔力を拝借して今もこうして存在できてるってわけ。もう本当助かったわ~』
「俺からしたら勝手に魔力使われてて、勝手に助かってただけだけどな」
『それはごめんだけど、私だって前サポートしてあげたからおあいこってことで!』
「へいへい。リーサ自身のことも気になるがそれよりも」
『なぁに、おねえさんのことが気になるの? うふふ、どうしようかなーでも私には愛する人がいるから、ごめんね☆』
何を勘違いしてるんだこの幽霊は。自分のことをおねえさんとか言ってるってことは年上かな。言動から察するにおちゃめな人なんだろう。
「気になるっていうのはそういうことじゃなくて! まず聞きたいことは俺のことや契約竜のことだって!」
『なーんだ、つまんないのー。何が聞きたいのかなー?』
「わかってること全部」
『この欲張りさんめ~。そうねえ、はじめて魔法を使ってから2日しか経ってないのに、今回供給されてる魔力量がかなり多いの。相当強い竜と契約してるのね』
「そっか、やっぱり俺は変な竜と契約してるらしいんだな。一体どんな竜なんだろう。早く会いたいもんだ」
そこまでリーサと話したところで、ティオがこちらに気づいて歩いてきた。
「ちょっと、さっきから何してるの? あ、もしかして前言ってたリサとかいう幽霊と話してる?」
『リサじゃなくてリーサ!』
「そうそう。なんか俺の魔力使って生きながらえてるらしい」
『その言い方はちょーっと良くないんじゃないかしら。そう、例えばほんのわずかな魔力を借りて、その気高き存在を保っている、とか』
「へー、ソーマの魔力をねえ。ちょっと私にも話させなさいよ」
「リーサ、ティオとも話せるか?」
「何も聞こえないけど」
『言ってなかったっけ? 私の声はこの剣の持ち主であるあなたにしか聞こえないのよーん』
「はあ。ティオ、どうやらリーサと話せるのは俺だけらしい」
「剣の主がソーマだから当然といえば当然ね…」
どうしても話したいなら俺を介して話せばいいとして。
魔力を借りてる、ってことは、俺からの魔力供給がないと存在できないということ。
なら、元の世界に戻るとき、ちゃんと次の持ち主を探してやらないとな。
他人から魔力を借りて、こんな剣に魂だけになっても留まろうとするなんて、よっぽど未練があるのだろう。死んでも死にきれず、それでも成し遂げたい何かがあるのだろう。
助けてもらった恩もある。ちゃんと話を聞いて、今度は俺がリーサの助けになってやらないとな。
「リーサ、やっぱり俺の話はいい。お前自身の話を聞かせてくれないか?」
姿は見えないけど、きっと驚いた顔をしているんだろう。元気に返事してたのに変な間があるのだから。
『……こらこら、若者が変な気を回すんじゃありません! まあでも、気が向いた時にでも昔話を聞かせてあげようかな~』
よかった、本調子に戻った。この剣、その中にいるこの不思議な幽霊さんとも長いつきあいになりそうだから、ゆっくり分かり合うことができれば良いな、なんてね。リーサが俺のことどう思ってるかわからないけども。
『そうそう、私もうすぐ寝るから。特訓、頑張ってね。ソーマが魔力を上手く使えるようになればもう少し長く話せるようになるから! 今はせいぜい1日2回くらいしか魔法使えないんだから精進するように! じゃあ、おやすみなさーい』
「おう、おやすみ~」
マイペースだなあ。最後にさらっと重要な情報残していくし。
結局、何を話してるか全く把握できてないティオさんに説明していたら6時になったので今日はこのまま帰ることになった。
メイルの背に乗りながら、1日を振り返る。
宿に戻ったら、剣をピカピカに磨こう。
夜。月は元の世界と何ら変わりなく、それが俺を安心させた。
何となく眠れなくて、魔宝剣を持って宿の小さな庭で型の確認をする。
考えねばなるまい。このまま旅を続けていくなら、人を殺める可能性があるということを。戦うための剣術、魔法なのだから。
「ソーマ、そんな思い詰めた顔をして、何を考えているの? 私との将来のこと? 大丈夫、何かあったら養ってあげるから」
背中に加わる重み。もっと特訓してこいつの気配に気づけるようになりたいもんだ。というか会いに来るのが早すぎだろう。1日とたってないぞ。
「音波、とりあえず背中から降りろ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます