第92話



「ルクレシア、なにを考えているのですか?」


 パルティモア提督を初めとした四人の《カンビローナム》首脳と、クレメンス・ダキアが出て行ってすぐに、オルはルクレシアへ詰め寄り、部屋の隅へと追い詰めた。

 リシルとリザルはその様子を呆然と眺めていた。


「パルティモア提督という人は、僕らの死を望んでいる。あなたには、それがわからないのですか?」

「わかってるって。……丸顔マルケルスが先走って、奴隷と兵士がもう何人か消えたんだろ? そんで、奴隷どもがビチグソみたく騒いでやがるから、ちゃんと《冒険者》を呼んだけど、ダメだったってことにしたいんだろ? あのばばあは」

「そこまで理解しているならば、なぜ?」

「まあ、落ち着けよ」


 ルクレシアはオルの肩に腕を回して、顔を寄せる。


「……いいか? あの腐ればばあは、わかってねえ。こっちにゃあ、《最上位冒険者トップ》がふたりも付いてるんだ。それに、おまえだって手練れだし、オレもリズもそれなりにはヤレる」

「だからといって……五万ウォルというのは、僕らが容易に逃げ出せないようにするための、言わば足枷ですよ?」

「最後までヤッちまえば、関係ねえよ。こっちは穴に向かって、突っ込んで、キレイに×××して、あのばばあに五万ウォルを、ひり出させてやらあいいんだ。……おまえだって、そのつもりだったろうが?」


 オルは呆れる思いだった。

 依頼元との信頼関係などというものを、ルクレシアは最初から信じていないのだ、と。


「いいか? それに、あのドチビは、今回だけ、って言ってたろ。……これは、言ってみりゃ最初で最後の好機さ。稼げるときに稼いでおかねえと」

「…………」


 確かに、ハギルは一党に加わると宣言したときに、「今回だけ」と言っていた。

 そのような意味においては、ルクレシアの言葉にも一理はある。


「な? それに、もう受けちまったんだ。やるしかねえだろ?」


 ルクレシアがオルの顔を覗き込むようにする。


 オルが異論を述べようとすると、ふと彼の袖が後ろから引かれた。

 彼が袖の端を見ると、そこには少し頬を紅潮させたリシルがいる。


「わたくしとクローラルさんには、無関係のお話なのでしょうか?」


 なぜか少し怒っている様子のリシルを訝しく思いながら、オルは首を横に振る。


「違います、リシル。少し、ルクレシアの発言の意図を」

「でしたら、おふたりだけでお話するのは、少しだけ不条理だと、わたくしも――クローラルさんもお思いのはずですわ」


 リシルは同調を求めて振り返る。


「ん? なんの話?」


 リザルは、窓からの眺めに目を取られていたらしい。


「――ほらっ、ですわ」


 どこらへんが「ほらっ」なのかオルにはわからなかった。

 彼が口を開きかけたそのとき、扉が開いて気難しそうな顔のクレメンス・ダキアだけがひとり部屋に戻って来た。

 ダキアはさっさと元の椅子に座ると、オルたちを一顧だにもせずに頭をぼりぼり掻き毟り始めた。


「とりあえず、ダキア支部長に改めてご挨拶しましょう、リシル」

「とりあえず、って……」


 オルは大人が子どもにそうするようにリシルの頭をぽんっと撫でて、机を回り込みクレメンス・ダキアへと歩み寄る。

 リシルはなにか微妙な表情で彼の背へと視線を注ぎながらも、リザルとルクレシアと共に彼に続いた。


「クレメンス・ダキア支部長。ご挨拶が遅くなりました、僕たちは〈人馬ケンタウルスのアンリオス〉という」

「等級は?」


 ダキアの素っ気ない物言いに、オルは言葉に詰まった。

 オルの顔も見もしなかったダキアの灰褐色の瞳が、眉と目蓋の上に垂れた白髪の間からオルを姿をちらりと眺める。


「どうした? 《グリア人》の奴隷では、言葉もわからんか? 身分証を見せてみろ」


 オルは面食らいながらも、身分証を取り出して老人に示しながら口を尖らせる。


「僕は確かに《グリア人》の奴隷ではありますが、《ルエルヴァ語》はわかります」

「なら、さっさか動け」


 さきほどまで、《カンビローナム》首脳陣に対して使用していた言葉遣いとは大きく異なる。

 年齢が若いから、それとも《グリア人》で奴隷だから、あるいはそれらすべての理由で、ダキアに食ってかかられているとオルは考えた。


「ダキア支部長、僕と仲間たちは、《アブノバ鉱山》の問題を」

「《中級冒険者ミディアム》か。その上、あの提督おんなにいいように使われる程度の頭の出来では、死んで当然か」


 もの凄い言われようだとオルは思った。

 どうやら、そう感じたのはオルだけではなかったようだ。


「あぁッ? 棺桶に放り込んで、墓石でどたまかち割るぞ、クソじじい」

「呆れたな。頭の悪い奴隷の仲間は品性が無い。育ちの悪さが知れるのう」


 ダキアのため息に、噛みついたルクレシアの鼻息が荒くなる。


「――じじいっ! 上等だ! おまえの萎びたキン○マ毟って、槍に吊るして」

「ルクレシア、やめてくだ」


――ぐわっ。


 オルの顔に勢いよく風が吹きつけた。

 見れば、部屋の大部分を占有していた巨大で重そうな長机が、ダキアの脚によって持ち上げられて、そのままひっくり返るところだった。


 どがっ、と長机の蹴り上げられた手前側の一辺が部屋の奥の壁にぶつかり、斜めに立てかけられた形で停止する。


「な……やろうってのかッ?!」

「ルクレシア!」


 まだ突っかかるルクレシアを止めるオルの脳裏に、《蹴り殺し》の異名が流れる。

 だが、かつてその異名をとった老人――クレメンス・ダキアは、いかにも気怠そうに口を開いた。


「なぜ、時間を取らなんだ?」

「は? なんだって?」


 思わぬ質問にルクレシアは怪訝そうな面持ちになる。


鉱山監督官マルケルスは明らかに焦っていた。おのれらは、外の有様も見て来たのだろう? ならばなぜ、交渉を有利に進めるために時を使わんのだ?」

「……あぁ……?」


 ルクレシアはその質問に答えられない。


 オルもダキアの言う通りだと考えた。

 無暗に五万ウォルという大金に跳びついて退路を断ってしまうよりは、いくらか交渉の余地と逃げ道を用意しておくべきだったのだ、と。


 ダキアはさらにオルへと視線を移す。


「小僧、おのれの不様な表情はなんだ? あの提督おんなが金にものを言わせたとき、そして、そこの小娘がそれを受けたときだ」


 確かに、あのときのオルは、あまりの展開の速さに呆気に取られていた。

 ルクレシアを制止できなかったほどに。


「おのれは上辺を取り繕うことを知るがいい。その顔に晒すべきは仲間への不満や思考の停止ではなく、自信だ。肚の読めぬ相手のほうが警戒に値する」


 耳が痛いとオルは思った。

 だが、ダキアの追及は止まらない。


「肚の中身が読めぬと知れば、提督あのおんなも警戒したはずだ。そこに交渉の余地が生まれる。小僧ども、おのれらがなによりも怠ったこととは、あのとき問うべきを問わなかったことだ」

「……問うべき……?」


 老いたるクレメンス・ダキアは頭をぼりぼり掻きながら言う。


「なぜ、現況についての確認を怠った?」


 それについては、オルも思うところがあった。

 現在の状況は大まかに把握できているはずだ、と。

 それを把握させるために、パルティモア提督はオルたちを同席させたはずなのだ、と。


 ルクレシアもまた、不満を顔に表していた。


「おい、じじい。いいか? オレらもそこまで馬鹿じゃねえ。わかってんだよ、丸顔マルケルスがやらかしたんだろ? やっこさん、発情期の犬みたく奴隷と兵士どもを穴に突っ込んだんだ。だから」

「坑道に送り込まれた奴隷の数は数百、軍団員は二十名。うち、およそ七十の奴隷が消え、団員で帰還した者もおらん。ゆえに外の有様だ」


 オルが予想していたよりも、被害者の数が多い。

 そして、もうひとつ気になったことがあった。


「今回は、帰還者がいるのですね?」

「そうだ。ちなみに、若造の軍団長ヘルダールは坑道への立ち入りを禁止する目的で二小隊を送っていた。それを無理にあの鉱山監督官マルケルスが坑道へと追い立てたようだ。潜った軍団員には生者がおらぬゆえ、証拠は無いがな」

「生者?」


 奇妙な言い回しだとオルは思った。


「そうだ。戻った奴隷のいくらかは、軍団員を含め多数の者どもが《非廻の怪物アンデッド》となったことを確認したと証言している。つまり《アブノバ鉱山》には《魔物》が存在する」


――《非廻ひえの怪物》――《アンデッド》とは、《魔物オルカ》の亜種とされている。

 肉体や霊体のみによって動く死者であり、それらが存在する理由は、なんらかの理由で転生を司る《冥府の女王》に許されなかったことによるという。


 許されない理由には個体差があるようだが、オルは師のパーティーテオ・フラーテルと出会う前に遭遇した《双生神》に付き従っていた《鬼火アンデッド》しか知らない。

 しかも、あいつは、『自分は、あんな無知性なやつらとは違う』とのたまっていたのだから、特殊な部類なのだろう。


「《魔物》だぁッ?! 知らねえよッ!」


 説教に業腹らしいルクレシアの言葉。

 ダキアは気怠そうに口を開く。


「《アンデッド》がなぜ《魔物》とされるか知らぬのか? 無知にもほどがある。……《神官クレリック》、言ってみろ」


 急に話を振られた、僧服のリシルが慌てて答える。


「《魔物》に致死に到る傷を負わされた人々が、《アンデッド》となるからですわ。それは《巨人の王》の呪いによるものであると伝えられております」

「そうだ。だが、《冒険者》の間では《魔物》は一般的に《魔獣》に劣ると言われている。その理由を知る者は?」


 それに対して、おずおずとリザルが手を挙げた。


「おおお、《魔物オルカ》は凶暴な割に、ちちち、知性を見せず、ももも、《魔獣モンストゥルム》のように、きょきょきょ、強靭な肉体を持たないからです。おおお、おもな《魔物》としては、あああ《アンデッド》や、むむ虫みたいな形態のものと、あああと、せせ生物的な特徴が乏しい」

「もういい。……すなわち、《魔物》などというものは本来ならば警戒には値しないということだ。その根源と増殖方法そのものは脅威ではあるが《冒険者》に致命の一撃を与えるようなものなど稀だからだ」


 そこで、一同もダキアの言わんとしていることに気がついた。

 オルは重々しく推論を口にする。


「鍛えられた軍団員を、《アンデッド》へと変えうるほどに強力で、多くの人々を飲み込み続けている《魔物》が、第二十七坑道にいる……?」


 しかしながらクレメンス・ダキアは首を横に振った。


「現在は第二十七坑道のみであるとは限らん」

「? ……どういう意味でしょうか?」

「数百もの奴隷どもが坑道に入れられて無為に過ごしたと思うか? なにせおのれの食い扶持がかかっている。大いに仕事に励んだのだ」


 オルとルクレシアは顔色を変えた。

 そこにクレメンス・ダキアの無慈悲な言葉が降りかかる。


「報告によれば、無謀な鉱山監督官マルケルスどのは当初の計画に従って第二十五から第三十二坑道を繋げおったそうだ」

「ハアッ?!」


 ルクレシアは理解が不能だと言わんばかりだ。

 オルとて同じ思いだった。

 ひとつの坑道を探索すれば良いはずが、合計八本の坑道を歩いて回らねばならないらしい。


「なぜ、マルケルス鉱山監督官は、そのような無茶を?」


 オルの問いにダキアは不快そうに頭頂部を掻き毟る。


「貴族どもというものはある面において《冒険者》に似る。やつらは《ルエルヴァ》の外で富を積んで、また《ルエルヴァ》へと帰還するのだ」

「《ルエルヴァ》の市外――地方に出向して、財産を築く、ということですか?」


 ダキアはオルの問いに頷いた。


「前任者が坑道に消えたことで、鉱山監督官は空席となった。マルケルスがどこからやって来おったかは知らぬが、見るからに愚物のあの男が鉱山監督官の地位に就けると思うか?」

「それは、つまり?」

「鈍い」


 ダキアがオルに向かって吐き捨てた。


「貴族どもの倣いだ。地位を得るにも金が要る。投資だな。そして、《アブノバ鉱山》が動いてさえいれば鉱山監督官はそれに見合うということだ」

「つまり、投資額とやらの回収に、マルケルスは逸ったと?」


 当然のように頷いたダキアに、オルは顎が外れるほどに呆れた。


 オルの良識からすれば、それは収賄と搾取だと言える。

 おそらくは、鉱山から産み出される富の一部を己の懐に直接入れるために、マルケルスは奴隷と兵士たちに無謀を強いたのだ。

 《共和国》と《カンビローナム》のためと言いながら、自分の投資・・を一刻も早く回収しようと躍起になっていただけ、というわけだ。


 だが、それを平常のことだとダキアですら考えている。

 その事実が、オルを心底驚かせた。


「鉱山監督官にあの男が就いたのは二十夜ほど前。わずかそれだけの間にこれだけの事が起きたのだ。それは提督あのおんなにしても予想外だったはず。だが、鉱山監督官マルケルスを就けたのも提督だ。容易く裁くわけにもいくまい」

「マルケルス鉱山監督官は、汲々としているのに、《アブノバ鉱山》が停止していても、パルティモア提督は、損害を被らないのですか?」

「その程度で揺らぐほど《メトクロイス》の氏名は軽くは無い。まあ、暴動でも起きればあのにやけた鉄面皮も剥がれるだろうが」


 淡々とした調子で語るダキア。

 彼にルクレシアがふたたび食ってかかる。


「そんなことは、どうでもいいんだよッ! ……おい、じじい。つまり、オレらはどんだけ穴倉の中を這い回らなけりゃならねえんだッ?!」

「八つの坑道の総距離は十五マイルを下らんだろう」

「ふざけんな! オレらが受けた依頼は、第二十七坑道の探索だけだろがッ!」

「おのれが今しがた、提督あのおんなからの依頼を受領したろう?」


 唖然とするルクレシアを見ながら、オルはパルティモアの言葉を思い出していた。

 確かに、彼女は「第二十七坑道」とは言わなかった。

 彼女は言ったのだ、「《アブノバ鉱山・・・・・・脅威の排除を依頼する」と。


「いいい今から、ぱぱパルティモア提督さまに、じじじ直談判に」

「門前払いが良いところだ。今ごろは、おのれの名において優秀な《冒険者》を雇用したとでも、提督あのおんなは奴隷どもに宣言しているはずだ。あとは、契約を盾に、若造ヘルダールに脅させれば奴隷どもは引き下がらざるを得まい。おのれらが坑道の闇に消えれば消えたで、奴隷どもの溜飲も多少は下がる。十分というわけだ」


 リザルの提案をダキアは切って落として、そう解説した。

 そして、鋭い眼差しをオルへと向ける。


「だからこそ、あのときに問わねばならなかったのだ。間抜け面を晒す前に舌を動かしておくべきだったのだ。さすれば、探索の失敗や断念について契約に盛り込んでおくことも出来たにも関わらず」

「なんでッ、あのとき言わなかったんだ!! クソじじいッ!!」


 ルクレシアの言葉にダキアは顔に刻まれた皺をゆがめてみせた。


「なぜ、わしがそこまでしてやらねばならん?」

「……なんだとォ?」


 跳びかからんばかりの顔のルクレシアに、ダキアが大きなため息をつく。


「わしとて、無駄な犠牲を厭う程度の良識は持ち合わせている。だが、自身を危険に晒してまで、おのれの尻もまともに拭えぬひよっ子に肩入れする理由などない」

「おまえッ!」


 オルは前のめりになるルクレシアとダキアの間に体を入れた。

 じっとオルは眼の前の老人の顔を窺う。

 自身を危険に晒してまで、というダキアの言葉がオルにそうさせた。


「つまり、パルティモア提督に正面から盾を突くということは、《蹴り殺し》の異名を取った元・《最上位冒険者》にとっても、かなり危険な部類の冒険だということですか?」

「……また、古い名を」


 ダキアはまた頭を無造作に掻き毟る。


提督あのおんなは、したたかだ。……闘いにおける腕の有無などというものは所詮蛮勇に過ぎぬ。それに、わしも随分と老いた」


 そして、老クレメンスはオルを見た。


「《アンデッド》を幾らか《深潭カルヴァロス》に送って逃げ帰って来るがいい。……多少の成果があれば十分だろう。わしがせいぜい骨を折ってやる。追い込まれている鉱山監督官マルケルスと鼻息の荒い若造ヘルダールの前でなければ、提督あのおんなとて聞く耳を持っているはずだ」


 オルはダキアの言葉を咀嚼する。

 そして、ひとつの疑問が頭を巡る。


「マルケルス鉱山監督官は、それほどに追い詰められているのですか?」

「知らん。だが、あやつはなにかを言われる前からあのような形相ではあった」

「やはり、彼は外の奴隷ひとたちの暴動や、自分が負うべき責めを怖れているのでしょうか?」


 オルの常識から言えば、それが妥当な推論だった。

 軍団長のヘルダールや、財務官のアヴィリアに追及されていたのも、マルケルス自身が無茶をした自業自得。

 奴隷たちが《冒険者ギルド》を囲んでいるのもあの男がここにいたからで、彼はその奴隷たちからの報復を恐れて駆け込んだのではないのか、と。


 しかしながら、マルケルスが部屋を出て行く前に言っていた言葉がオルの思考を捉えていた。

 まるで、時間が問題なのだと言わんばかりの言葉。

 それがまさしく重要な問題だと証明するように、ダキアは事もなげに答える。


「貴族が奴隷など怖れるものか。奴隷どもは契約によって縛られている。矢鱈なことはできん。ほかの貴族どもの追及は警戒すべきものだろうが、所詮同じ穴のむじなというものだ」

「では、僕らが単に《アブノバ鉱山》に入って戻って来るだけでは、マルケルスの懸念は解消されないのでは?」

「かもしれん。しかし、それがどうしたというのだ?」


 オルは考える。

 マルケルスがどのような問題を抱えているのかはわからないが、それは彼にとっては犠牲を払っても、なお解決を優先したい問題に違いない、と。

 彼は事実、本部からの《冒険者》の派遣すら待てずに暴挙に出た。


 オルとて、百人近い犠牲を出したマルケルスに同情などはしていない。

 だが、引責されるべきあの男が鉱山監督官という地位に未だあって、時間が引き金となるらしい問題を抱え続けていることは事実なのだと考える。


「僕らが中途半端に逃げ帰って来た場合、彼はどのような行動に出るでしょうか?」

「知らん。……だが、《カンビローナム》と、鉱山監督官マルケルスが統括する《アブノバ鉱山》には些細だが確実な距離がある」


 それは、《アブノバ鉱山》においてマルケルスの無謀がふたたび発揮される余地があるということにほかならない、とオルは考えた。

 つまりは、多くの奴隷たちがまた不幸な目に遭う可能性を示唆している。


 マルケルスとて、暴挙の危険性は理解しているはずだとオルも思いたかった。

 しかしながら、収賄と搾取を平然とやってのける者に良識を期待することはできないとオルは考えを進める。

 加えて、オルたち一行が《アブノバ鉱山》から生きて出てくれば、マルケルスは問題は解決されたとわざと・・・誤認するかもしれない。


 そうなれば、元の木阿弥だ。


「最新の坑道図は、ここにありますか?」


 オルは訝しそうに眉根を寄せるダキアに、そう質問をした。


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