まだ名前のない小説 名前は小説
たから
第1話
「ハァーハァーハァー」
待ち合わせの美術館まで推定一キロ。快斗は闇の中を走る。あいにくの雨で体はずぶ濡れ。雨が降るとは思っていなかった。先ほどまで真夏のような暑さから打って変わって冬の寒さに戻ってしまった。
「ゆきだ……」
寒い。寒すぎる。どうして半袖なんか着てきてしまったのか。アスファルトが白く染まる中一人の男は走る。
「あっ」
突然足を上げても進まなくなった。それどころか地面に近づいていく。
「ははっは」
後ろを歩いていた子供が笑った。転んでしまったのだ。しかし、何ごともなっかたようにまた走り始めた。
美術館まで推定五百メートル。
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