ひかりのにわ 掌編集 1

御剣ひかる

現代ドラマ

ほのぼの

桜が連れてくる春

 娘二人と、堤防沿いの小道を散歩した。上の娘は手をつないで、下の娘はベビーカーに乗せて、ゆっくりと歩く。

 うららかな春の日差しに照らされて、草も来も、川の水も暖かそうだ。

「ねぇねぇ、おかあさーん」

 上の娘はこの四月から幼稚園の年中さんになる。最近は言葉も達者になってきて、時々わたしもびっくりする。よくしゃべるのはいいのだけれど、質問攻めには時々うんざりする。ちゃんと応えてあげないといけないんだけど。

「はるはどこからくるの?」

 え? 春はどこから?

「ねぇねぇ。どこから?」

 娘が大きな瞳で見上げてくる。

 冬が終わったら春になるんだよ、とか、立春を過ぎたらもう春なんだよ、とか。一瞬で大人の理屈が頭に浮かんだけれど、そんなことを四歳の子に言ってもね。

 その時、ふと頬を何かが撫でた。

 何かな、と思ったら桜の花びらだった。

「春はね。桜の花が連れて来るんだよ」

 娘を見て、そう答えた。

「さくらのはな?」

「そう。だから桜の花はひらひらって落ちてくるの。春だよって教えてくれてるの」

 娘は、ぱぁっと笑顔になった。

「そっかー。さくらのはなさん、ありがとう」

 ひらひら、ひらひらと落ちてくる花びらに手を伸ばして、娘が言う。

「かわいいねー」

 小さな声でささやきあいながら、わたしたちのそばを中学生ぐらいの女の子達が通り過ぎていく。

 あと十年もしないうちに、娘たちもあれぐらいになるんだ。小さな子を見てかわいいと思うのだろうか。

 そして、わたしの手を離れて、巣立っていくんだ。

 ……そこまで考えるには、まだまだ手のかかる子供達だけれど、ゆっくり、ゆっくり、大きくなって。

 この桜に負けないくらいの可憐な笑顔を、忘れないで。


(了)


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 お題:桜

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