羽場雄星 〜ハバユウセイ〜

4月12日


「くそっ、また負けた」


 午後10時、仕事を終えた羽場雄星さんはプロジェクトルームに備え付けられている壁掛けテレビで野球中継を見ながら怒り交じりに小さくそう呟いた。


「野球中継終わったの?」


「あぁ、終わった。終わったよ」


 雄星さんの応援していたチームは残念ながら今日も負けてしまったようで、雄星さんが座っている場所の周りには相手チームに点数が入る度に自棄で開けた缶ビールの残骸が10個近く転がっていた。


「今年はファイナルまで行けるかもしれないと思っていたけれどダメそうだね」


「いいや、そんな事は無い。シーズンはまだ始まったばかりだからな。これから勝って、勝って、勝ちまくるに違いないさ」


 ここ数年何度も聞いた覚えのあるセリフを今年も力強く言い放った雄星さんだったが、例年通り今年も顔が真っ赤に染まり酔いが回っていることがはっきりとわかったので僕は給湯室に冷たい水を汲みに向かった。


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