王道すぎて面白いラブコメ
近衛雄吾
◇序章
第1話 『これはエイプリルフールですか?』
「ひれ伏せ人類私が神だ!」
見た目は完全にロリの自称神様はそう言った。
「いや、どう見てもただのロリっ娘じゃん(笑)」
「ロリっ娘ではない! 私は神だ!」
「あーそうですね。ロリ神様ですね~」
上座にある椅子に腰かけて──けれど足は宙ぶらりん──威圧的な態度をとってくるけれど、俺には駄々をこねる幼女にしか見えない。
「主、私が神であることをまるで信じておらぬな?」
「そりゃあ、ねえ……。神様って言ったらこう、荘厳な感じで、長い髭を生やしてるおじいちゃんみたいなイメージでしょ。少なくともロリっ娘ではない」
「失敬な! ……なぜ貴様のような人間を選んでしまったのだ私は……」
「そりゃあ、不完全なロリ神様だから……」
「こ、こほん。やはり神というのは威厳があって、寛容でなければな」
俺のこと無視して、一人で納得したかと思うと胸を張って俺のことを指さしてきた。
「おめでとう。主は数多いる人類の中から特別に選ばれた幸運な男だ。何か叶えてほしい望みはないか?」
もし仮にこのロリっ娘が神様だとして、俺が叶えたい望み、か。
「じゃあ──」
「待って! ちょっとタンマ! 大事なこと言い忘れてましたてへっ」
「てへっじゃねぇよ! お前ほんとに神様なんだろうな!?」
「神様にだって失敗はあることもあるのだ。私こと神は寛大だから貴様みたいなちっぽけな野郎の文句など聞き逃してやるのだ」
「御託はいいから早く本題に入れよ!」
「まったく……。ホモはセッカチというが、こやつはそういう類なのかもしれん……」
「………………」
すごくむかついたけど、まぁ、突っ込んでも話が進まなさそうなので、とりあえず黙っておく。
「私が言い忘れたのは、叶える願いの注意説明だ。三つある。一つ目は、叶える願いの増加。際限なく願いを叶える願いというやつがダメなやつ。
二つ目は、殺人と死人の蘇生。これは理に反するので却下。
三つ目は、恋愛の心理操作。これも理に反するので却下。
さて、これを踏まえて貴様の望みを言ってみるといい! なんでも叶えてあげよう!」
「ん? 今なんでもって……」
「常識の範囲内で頼むぞ」
「じゃあ、俺が神になることも……」
「私は今常識の範囲内でと言ったぞ!?」
どうやら俺が神になることは常識の範囲外らしい。
少し真面目に考えてみるか。
選択肢としては──
➀ 一生遊んで暮らせるくらいの億万長者になる
➁ 一人でギャルゲーが作れるくらいの類稀なる才能を手に入れる
こんなところだろうか。だが、もっとこう……崇高で俺らオタクがどう頑張っても実現できない願いはないものか……
「あ!」
「何だ。決まったのか」
「願い……決まったぜ」
「ならば申してみよ」
一呼吸置いて、俺は心からの願いが常識の範囲内であることを願い、一言一言区切って言った。
「俺は!二次元にいるような美少女と!ラブコメがしたい!」
オタクの最大にして、崇高な願い。魂の叫びと言っても過言ではないその願い。それは、二次元の美少女とリアルでラブコメすることだ。
ロリ神様の反応を窺う。沈黙して、一秒、二秒、三秒──
「……よかろう。その願い、承った」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺、古賀祐樹の魂の叫びはこうして聞き届けられることになった。
○
「なんだ夢かよ……」
拳を突き上げた状態で起床した俺は、今日という日が四月一日──エイプリルフールの日だと認識するのにそう時間はかからなかった。
今はちょうど春休みで、もういくつ寝ると、全然待ちに待ってない新学期がやってくる。
「はあ……」
新学期までの日数を数えるだけで憂鬱になってくる。なぜかというと、俺には友達と呼べる存在がいないのだ。どの学校にも少数ながら『オタク』と呼ばれる人間は存在するのだろうが、俺のクラスには運悪く一人も存在しなかったのだ。それで、俺みたいなディープなオタクは居場所を失い、ぼっちを極めているまである。
「はあ……」
ため息を吐くと幸せが逃げるというけれど、俺の高校生活に『青春』という幸せは果たして残っているのだろうか、いや残っていない。少なくとも、反語にできるくらいには青春を謳歌するどころか高校生活すらエンジョイできていない。
しかし、もしもさっきのロリ神の言うことが本当ならば、俺はすごく強運の持ち主だということだ。
「二次元にいるような美少女とラブコメしたい、か……」
夢の中で叫んだセリフを反芻する。なんとバカバカしいのだろう。俺は現実と虚構の見境もつかなくなったのだろうか。
「ないない……そんなのあり得るわけがない……」
やっぱりエイプリルフールだ。夢にまであざ笑われたんだ俺は。
○
しかし、その時の俺はまだ知らない。
この後、およそ現実とは思えないイベントが発生することを。
俺という人間が青春できる可能性が微レ存に残されていたことを。
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