第189話 自転車に乗ろう

   

 石畳の上は凸凹で自転車はとても運転しづらいと思う。というか私はアスファルトの上でないと嫌だ。


「クリリ~、本当にここで練習するの? 危ないよ~」


「大丈夫だよー。だってナナミさんも自転車乗れるんでしょう?」


 確かに乗れるかと聞かれて乗れると答えた。嘘じゃないよ。中学校は自転車通学だったから乗れることは乗れる。でもこのマウンテンバイクは無理だ。乗ったことはないけど派手に転ぶ未来が見える。

 まさかくじでマウンテンバイクが当たるとは思ってもみなかった。自動車でなくてよかったけど。自動車なんて当たってもガソリンもないし動かすこともできないもんね。ただの鉄の塊だ。それを考えれば自転車が当たったのは良かったと言える。

 でもここで自転車が乗れるだろうか?

 女の人は冒険者以外はスカートだ。それもロングスカート。聞いたことはないがミニスカートなんて言葉もないに違いない。要するに足を見せるのは破廉恥なことなのだと思う。日本で自転車に乗るのは当たり前だったけど、この世界ではやめておいたほうが無難だろう。タケルには必用ないだろうし.....どうするかなぁ~と考えていたら、クリリと目があった。そうだ! クリリは結構遠い所から通ってるから自転車を使えたら絶対に便利。普通の自転車と違ってマウンテンバイクなら凸凹した道でも(私には無理だけど)通えるはず。運動神経も良いからクリリならすぐ乗れるようになるよね。


「クリリ、タケルの屋敷から通うの大変でしょう。自転車で通ったらいいよ」


「自転車ってこれのこと? タケルさんの屋敷ってそれほど遠くないから大丈夫だよ。どうやって使うのかわからないけど売ったほうがいいよ」


 クリリって獣人だからあの距離も遠くはないようだ。とは言うものの自転車を売るというのは無理がある。こんな得体の知れないものさすがに買う人がいないだろう。馬に比べて維持費もそんなにかからないし。


「いや、クリリ。これは便利だぞ。俺がいない時にもこれがあったら夜帰るのも安心だ。ちょっと外で練習しよう。クリリならすぐ乗れるさ」


「乗るの?」


「私でも乗れるから大丈夫だよ。馬と違って自分で動かさないといけないけどね」


 簡単に説明したけどよくわからないようで首を傾げてる。日本には当たり前にあるものだけど見たこともない物に乗るのは不安かな。


 外に出るとタケルがスイスイとマウンテンバイクを走らせている。石畳でも平気みたい。


「こんな感じだ。わかったか?」


「うん。このペダルを踏んだらいいんだね。止まるときはここをぎゅっとして、方向はこれを向けた方に進む」


 タケルが乗ってるのを見ただけで理解するなんて凄い。でも理屈でわかっても実際に乗れるとは限らない。

 タケルに渡されたマウンテンバイクにクリリが乗る。足が地面につかない。それでもなぜか転けない。


「クリリ、後ろ持ってなくて良い?」


「危ないからいいよ」


 危ないから持とうと思ったのに。

 クリリは颯爽とペダルを漕ぎながら走り出した。


「えっ? 初めてで乗れるの?」


「さすがだな。バランスがいいのか」


 初めてなのにスピード出しすぎじゃないかなぁ。と心配していると案の定ブレーキをかけるのが急すぎてマウンテンバイクが前に回転して倒れる。クリリは慌てることもなくハンドルから手を離してくるくるっと回転して着地した。


「あ~壊れちゃった?」


 クリリは倒してしまったマウンテンバイクを起こしながら心配そうに呟く。


「そのくらいで壊れないさ。大丈夫か?」


 タケルはいつの間にかクリリがこけた場所に移動していた。


「うん、大丈夫」


「スピード出してる時にブレーキかけるのはやめたほうがいいぞ」


「うん、なんか今のでわかった気がする」


 クリリが言ったようにその後はこけることもなくスイスイと軽やかに乗りこなした。

 解せない。私は自転車に乗れるようになるまでに何日かかったことか....。これからクリリに先輩として教えようと思ってたのにあっという間に乗れるようになるなんて.....。

 クリリがすごいのかそれとも異世界人がすごいのか?

 オセロでも負けるし、なんか私が勝てるものってないのかなぁ~。

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