第108話 夏祭りークリリside

毎年夏祭りは孤児院で開くバザーで忙しかった。年々売れなくなっていくことでみんなのやる気もなくなっていた。でも今年は違う。かき氷を売るのだ。シロップの味もイチゴにメロンに抹茶とよりどりみどり。イチゴやメロンに抹茶とかよくわからないけど、ナナミさんの故郷にある果物らしい。抹茶は果物じゃなくてお茶だって言ってた。俺はやっぱりイチゴ味に練乳をかけるのが好きだ。院長先生は抹茶味にあずきを乗せるのがいいと言ってた。

そして今年の目玉は射的だ。予行練習でやらせてもらったけど、的に当てるのが意外と難しい。魔法を使えば簡単なんだけどな。


「かき氷3つください」


一番初めの客はナナミさんの友達の本屋のベスさん達だった。どんな物なのかわからないから遠巻きに見てる人が沢山いる。

俺は魔石を回して氷を削っていく。


『ゴリゴリゴリーーィ』


大きな音にギョッとしたように振り向く人もいる。3つはあっという間に出来上がった。本当にこのごうかばんかき氷機は素晴らしい。


「シロップはどうしますか?」


「うーん、イチゴに練乳が美味しいってナナミが言ってたからそれでお願い」


シロップと練乳はコレットさんがかけてくれる。


「わー。冷たくて美味しい!」


「ホント。氷って美味しいのね~」


評判は上々。それを見てた人たちがわらわらと集まってくる。


「俺にも同じのを頼む」


「私はメロン味でお願い」


あっという間に人でいっぱいになった。この調子だったら孤児院の方も売れてるだろう。ホッとした。ナナミさんのおかげで孤児院の食生活はだいぶ良くなってきてるけど、この夏祭りで稼がないと服が買えない。古着でも結構な値段がするのだ。少し前までは俺も継ぎ接ぎだらけの服を着ていた。去年もおとどしも夏祭りで稼ぐことができなかったからだ。男の俺はまだいいけど、女の子にはせめて古くてもいいから継ぎ接ぎのない服を着させてあげたいとずっと思っていた。

孤児院は領主様の寄付金で成り立っている。教会は建物を貸してくれてるだけらしい。

タケルさんが魔王を倒してくれたおかげで平和が訪れたけど、俺が幼い頃は本当に大変だった。魔族が虫けらのように人を殺していた。そのせいで孤児の数が多いのだ。領主様からの寄付金だけではキツキツの生活になる。だがここはまだいい方なんだと聞いた。他所では女の子たちが売られることもあるそうだ。ーーここだっていつそうなってもおかしくなかった。領主様が良い人で良かったと院長先生はいつも言ってる。苦しい時でもできるだけの援助はしてくれているそうだ。


「この抹茶のあずきがけっての美味しそうだな。これをくれ」


「はい。すぐ作ります」


びっくりだよ。この人変装してるけど領主様だよね。みんなも気づいてるけど知らないふりをしてる。


「父上、俺はイチゴ味の練乳かけというのにします」


「それも美味しそうだな。次に買うときはそれにしよう」


親子揃って変装?......キラキラしててすごく目立ってる。

俺はちょっとだけ氷を大盛りにした。コレットさんもちょっとだけあずきを多めに入れて、練乳も多めにかけてる。

この地に住む人はみんなこの領主様の事を慕ってる。だから必死で変装してる姿を見て、みんな気づかないふりをしてるのだ。





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