第27話 ガーディナー公爵家side




「試験の方はどうだった?」


アンドリュー・ガーディナー公爵は息子であるクリスに声をかけた。部屋には2人しかいない。公爵邸の執務室である。テーブルには紅茶とクッキーが置いてある。


「まだ結果は出てませんが、全部埋めることができたので上位にはいれると思います。これもオールド眼鏡のおかげです」


クリスは飲んでいた紅茶を置くとホッとしたように答えた。返事を聞いた父親も満足そうに頷く。


「それは良かった。これで嫡子問題もおきないだろう。それにしても不思議だ。この時期にちょうどクリスを助けてくれるものが現れるとは…。これは女神さまの神託と関係あるのか」


「神託ですか?」


「うむ。お前が生まれた時巫女姫様から神託を授かった。巫女姫様とお前の母親は仲が良かったからな。お前を連れて神殿に行った時に神託があったらしい」


クリスには初めて聞く話である。クリスの母親は幼い時に亡くなっている。それもあって後ろ盾の少ないクリスの立場は弱かった。

継母であるリリアはクリスをいじめるということはなかったが、やはり自分の子に後を継がせたいと思っているせいでクリスとは距離を置いている。


「詳しくは聞いてないのだが、この子が困った時1人の少女が異世界から現れる。彼女が助けてくれるだろう。とかそういう内容だった。おそらくもっと詳しい事をセリアは聞いていたのだろうが...あの頃は忙しくて、神託などと間に受けなかった私は話半分に聞いていた」


セリアとはクリスの母親の名前だ。


「異世界からですか? 確かにナナミという少女はこの辺りの顔ではなかったですが、異国人と言うのならともかく異世界からというのは...異世界から現れる人は勇者様だけだと思ってました」


「確かに勇者様はこちらから召喚して異世界から来てもらっているから有名だが、ごく稀に女神さまが異世界から連れてこられることがあるそうだ。その者たちは不思議な力を持っているらしい。ただあまり記録が残っていない。女神さまからあたえられた力で何か発明したり、治癒魔法の力で難病に苦しんでいた人たちを助けたという伝承が残っているくらいだ。異世界から来た人は、迫害されたくないという思いから、異世界人であることを隠している為に知られていることが少ないのだろう」


クリスはナナミのことを思い出していた。確かに変わっていたように思える。


「では無理に聞き出そうとすると.....」


「そう、無理矢理なことをするとどこか違う国に行くかもしれない。ここは見守るのがいいだろう。異世界人は女神さまからの贈り物だから、害はない。そっと見守っていこう。」

「商業ギルドのショルトからも手紙が来た。変わった商品をいくらでも持っているナナミという少女が現れた。公爵様が言われていた異世界人ではないかとな」


ショルトというのは公爵家の草の役割をしている男だ。公爵家には草が何人かいる。アンドリューはその者たちに異世界から来たと思われるものを見かけたら気づかれないように保護するように言っている。ショルトの手紙によれば、異世界人の事は聞いてはいたが本気にしてなかったため気づくのに遅れてしまった。クリスが接触したと聞き、初めて異世界人ではないかと思うようになったようだ。

クリスが接触したのは偶然だったが、ショルトはさすが公爵様のご子息ですと勘違いしている。


「ナナミの売ってくれたオールド眼鏡は確かに珍しいものです。異世界から来た人というのはあり得る話です。」


「ショルトは異世界人と気づく前から店を持つことを勧めていたから、怪しまれることなく領地に留め置くことができたようだ。店は繁盛しているということだ。そろそろ偵察に行ってもらったトーマスが帰ってくるだろう」


「私もトーマスに会いたいです」


恩人でもあるナナミの店の話を聞きたいとクリスは申し出た。


「そういうだろうと思ってた。トーマスがくるまで、紅茶でも飲んでいよう。学校の話でも聞かせてくれ」




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