第19話 猫が居る

 今年、専門学校に通う事になったMさんは伯母の家に下宿することになった。


 最初は就職の事も考えて一人暮らしする筈だったのだが心配した父が専門学校近場に住んでいる伯母に話した所、伯母がそれならばといった感じで下宿が決まったのだ。伯母は夫に先立たれ二人の子供は独り立ちし県外に住んでいる為、一人暮らしをしていた。下宿を提案したのは表には出してはいなかったが寂しかったのだろうと今でも考えている。


 伯母の家は二階建てでMさんは二階の部屋を使わせてもらう事になった。その夜、荷物の整理を終えるとMさんは眠った。

 しばらくしてMさんは急に目が覚めた。慣れない場所だから眠りが浅かったのだろうか思ったがずっしりと胸辺りに何かが居るのを感じた。何だろうと思い重みを感じる方を見てみると・・・・・・。

 黒猫が丸まって寝ていた。


(この家には猫、居たっけ・・・・・・?)


 そんな事を考えていたら黒猫がMさんの方を見ていた、金色の目をクリクリとさせてじっと見ていると思ったら「にゃぁ・・・・・・」と鳴いて消えた、その鳴き声が何処か悲しげに聞こえた。

 その翌日、伯母に昨夜の出来事は話さない様に黒猫の事を聞いてみると伯母はニコニコとしながら写真を見せてくれた。写真には少女に抱かれている黒猫が写っていた、猫を抱いている少女はこの家の上の子で現在は結婚し県外に暮らしている。

 黒猫は家族の中で上の子に一番懐いていたらしく家に居る時はずっと一緒に居たそうだ。だが上の子の結婚前に老衰でこの世を去ったと言う。そしてMさんが使っている部屋は昔は上の子が使っていた事も教えてくれた。

 Mさんは話を聞いて黒猫は今でも大好きだった上の子を待っていると思った、きっとMさんを大好きだった上の子と勘違いして寝たのだ、だけど違ったからあんなに悲しげに鳴いたのだろうと。

 それ以来、黒猫は現れなかったそうだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る