連作「ソニア」 ~金沢五重奏~

藤亭

世界の始まりと終わり

  「世界の始まりと終わり」


踊り飽きた君が僕の隣に座ったのを

偶然とか運命のせいにしたくない

きっと僕達はお互い何か欠けていたから

それを埋め合わせる力が働いたんだろうって

そう思いたいじゃない?


「喉が乾いたの、一緒に飲まない?」

ロックアイスみたいにクリアな声

僕はズブロッカ、君はチェリーの乗ったカクテルを

天井にぶら下がったモニターで

ウッズが満月みたいにスイングしてた


新世紀の五月はまだ静寂で

僕達は何も分かっていなかった

触れた指先から恋が始まった事も

もうすぐ世界が終るって事も


寄りかかる肩の暖かさを伝えるのは

言葉以上に通じ合う不思議な力

片町は今日も賑やかで、寂しくて

僕達みたいに何かが欠けてるってのは

気のせいじゃ無いだろう?


「この街はいつも濡れてるね」

そりゃ君の故郷は氷の世界だろうけど

ここにはここの良さがあるって

余所者の僕が言うのも変だけど

愛し合うには充分過ぎる程素敵な街


皆が新世紀に浮かれてた

僕達は雨の街で幸せに包まれ

始まりの予感を感じていた

終わりの近い世界の中で

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