両親の抵抗
『バドラル兵よ』
落ち着きを取り戻し、気迫を込めて放ったソルマの一言は、彼よりも何歳も年下であろう兵達の動きを止めた。
『レーダーとやらが完成し、我が家の近くに反応があった事はこの状況で解った。だが、私達の子を疑うならお門違いだ。なんなら隣人達に聞いて回るもいいだろう。……この製鉄場は私と妻の生活を支えるのにも余裕が無い程の大切な場所だ。ここを壊されるような事があれば、私も黙ってはいないぞ』
他の兵達は既に製鉄機械を力任せに押したり蹴飛ばしたりしながら、機械の間を縫うように探して回っていた。時折、ガラガラン!と機械が壊れ部品やパイプが地に落ちる音が響いた。
『ははははははは! 完成したレーダーの精度を少々甘く見てはいまいか!? 我が国家の開発したレーダーにはな、貴様の家の、この腐った鉄屑の部屋にゼロ・レイスが存在する事までしっかりと反応が映っているのだ! 見くびったな、男。はっ、黙っていないだと? どう黙っていないのだ? あぁ?!』
カカカッ! と嘲笑し、大声で叫ぶ兵に、ソルマはシエラの手をゆっくりと解きながら二、三歩詰め寄った。シエラの握った裾、その右裾の先には六十センチ程の鉄パイプが握られていたのだ。シエラはそれを止め、捨てるようにと目で訴えたのだが、ソルマはそれを拒み、兵の前に立った。少しずつパイプの先端を兵に向けて構えをとる。
『っ、……ほぅ、そこまで此処が大事か? はたまた我が子への愛故にか?』
バドラル兵はその気迫に思わず息を呑んだが、すぐに威厳を取り戻してソルマを見返してこう言った。執拗なまでに子の存在を強調していたが、暫く睨み合った後、見下すような視線とにやけた顔のまま身を翻し、まいったまいった、と言わんばかりに両手を上げて"降参"のようなジェスチャーを取った……
次の瞬間。
黒豹のような身のこなしで、腰の曲刀に手をやり、ズラッと言う音と共に振り返って銀色の刃を引き抜いた。
『っっ!!』
ブツブツッ!と衣服の繊維が切れる音ではなく、何か肉のような物が斬り裂かれる音がした。ニヤリと笑って剣を振り降ろした兵。鉄パイプを構えて防戦しようとしたソルマは視界にノイズが走り大きく歪んだ。何故だ、何故そんな……。
自分と鉄パイプと、曲刀とこの憎い兵との間に大きな影が割り込んでいた。ソルマの両足は、その物体の重さに負け宙に浮いた。ソルマに被さるようにして飛び込んできたのは背中を大きく一直線に紅く滲ませた、シエラ、その人だった。
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