【34】首のない人



〈1〉

森だなと思い見てると石段が透けてる朝の車窓の向こう


〈2〉

木の机を両手で叩く休み時間「うるさい」とだけ感想もらう


〈3〉

券売機をかわいがってるおばさんはそんなわけない清掃員だ


〈4〉

突っ走る《北東なるけま》と書きながら《まけるな東北》と読ませるクルマ


〈5〉

ウォシュレットに合わせてケツをずらしてく外では犬に話す人間


〈6〉

守護霊がオレのうしろでシクシクとシクシクとああ、ああシクシクと


〈7〉

あちらへと行きたいオレとこちらへと来たい見知らぬ人、信号機


〈8〉

あんなとこまで行ったのが不思議だがまだ登ってく絶壁の人


〈9〉

まっしろなくしゃくしゃ紙を内に秘め持ち主を待つブランドバッグ


〈10〉

聴覚の検査するとき押しボタン持ってクイズの緊張感だ


〈11〉

万国旗とりはずされてすべすべの家一件がご近所となる


〈12〉

「驚安」が読めないオレは殿堂のドン・キホーテを見ても素通り


〈13〉

「人間は、か」まで聞いたらパスカルだ「んがえる葦である」聞かずとも


〈14〉

首のない人が野原を駆け抜けるさまを見ている充実の時


〈15〉

幽霊に女性が多いそのわけを思い悲しい推測になる





〈1-13〉結社誌『未来』

〈14-15〉短歌連作サークル誌『あみもの』

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