強敵襲来

 ガチャン、ガチャン。

 トライポッドが、学園に向かって歩みを進めて行く。

 その様は、いまや学園からも、はっきりと見てとれた。


「炎浄院さん、このままでは敵いませんよ! 誰かの願い事で、『巨大ロボ』なり『魔法少女』なりを出して、対抗しないと!」

 必死で理事長に訴えるリュウジだったが、


「それは駄目だ、如月君。『強い奴のインフレ』が続けば、ここもいずれは新宿の二の舞いだ。今いるメンツでどうにかするのだ!」

 少しは知恵を付けた理事長がそう答える。

 だが、それが無理難題であることも承知の上だ。


 襲いかかる相手を片端から煉獄送りにする理事長の無敵の『必殺技』にも、1つの弱点があった。

 巨大な質量の相手を『飛ばす』場合、相手の至近距離で十数秒の精神集中を要するのだ。

 その間は何とか、相手の動きを封じなければならない。

 今の『戦力』で、果たしてそれがかなうだろうか?


 だが、理事長には歴史科の教師、司馬文里しばふみさと先生から授かった、必勝の策があった。


 トライポッドには、ある習性があったのだ。

 開けた場所で丸腰の人間を見つけると、その触手で捕獲して、食べようとするのだ。

 そこが狙い目だ。用意した囮をトライポッドに捕獲させ、口を開けた瞬間に隠し持った手榴弾を放り込み、内側から爆破するのだ。

 あとは、どうにでも料理すればいい。


「……というわけだ如月君。君が囮になってヤツに食べられるんだ! 大丈夫、救出とか、アフターケアは(なるべく)きっちりやるからな!」

「ちょま……! まってください、いきなりそんな……! なんで俺が!!」

 いきなりの指令に面食らうリュウジに、


「『隊員』はヤツの陽動で全員出払っているんだ。それに、君はヒョロくて弱っちそうだから敵も油断するはずだ!」

 理事長が厳しく言い放って、彼に最後のだめ押し。


「如月君、水無月君を守りたいんだろう……! 男なら、体を張れ!」


「ぶおーーーーーん!」

 校門を跨いで、学園に人食い宇宙戦車が入り込んできた。

 校庭の真ん中にいたのは、ただ一人。


「はー。男なら体を張れ……か」

 腰の引けまくったリュウジが立っているのだ。


「あーもーくそ、絶対に頼みますよ炎浄院さん! おーい、こっちだよーん!」

 リュウジはトライポッドにむかって精一杯に手を振った。


  #


「リュウジおじさん、何であんな無茶を…?」

 茉莉歌は、雨と一緒に身を屈めて、教室の窓から校庭の様子をうかがっていた。


「お姉ちゃん、おじさん大丈夫かな……」

 茉莉歌にすがった雨が、不安そうに彼女を見上げる。

 他の生徒と避難者たちも全員、教室や体育館に身を潜めていた。


「ぶおっ!」

 校庭ではリュウジと宇宙戦車が対峙している。

 リュウジに気付いたトライポッドが、その動きを止めたのだ。

 宇宙戦車の、目玉のようなサーチライトがギラリと光って、リュウジを見据えた。


 そして、


  #


 甲虫のように黒光りする胴体から、金属製の触手を露わになった。

 触手が、するすると地上に立つリュウジに向かって伸びてくる。


「たのむぞ~! 両手はふさがないでくれ!」

 ホールドアップしたリュウジの胴体を、触手がぐるぐる巻きにして行く。

 理事長から渡された手榴弾は一発。尻ポケットに引っかかっている。これなら手が届く。


「……先生よ。あの兄ちゃん一人で、本当に大丈夫かね?」

 校舎の影に身を潜めて、RPGに弾頭を装填しながら、物部老人が傍の理事長に言った。


「時間がなくて、彼に頼むしかなかったのです。失敗した時は私が囮になりますよ」

 そう答える理事長。

 彼は飯島老人のロケット砲を見てニカッと笑う。


「その時は、そいつで援護を頼みますよ」

 理事長も命がけだった。


「救助の準備が出来ました。これが精一杯ですが……」

 パワーローダーに変形したてば九郎が、救命マットを抱え上げている。

 これで、リュウジをキャッチするつもりなのだ。

 学園の『隊員』達は、みな息を潜めて、校舎の死角から出動の機会を窺っていた。


  #


 ごくり。


 空中に浮いたリュウジは、緊張で生唾をのみこんだ。

 冷たく撓うその触手で、ゆっくりとリュウジを自分の口元へと巻き上げて行くトライポッド。


 パカッ!


 リュウジを食べるため、宇宙戦車の下腹部が展開した。

 ゆっくりとリュウジの眼前に迫っってくる、まるで生物のそれのように蠕動する、トライポッドの不気味な口腔。


「よし!これならいけるぞ!」

 自身の腕力と相手との距離を必死で計りながら、リュウジは今が爆弾投擲の時と見定めた。

 彼が手榴弾の安全ピンに慎重に手をかけた、だが、その時だった。


「リュウジ? 何してるんだよ、そんなところで?」

 地上からリュウジを呼ぶ声が聞こえて、彼が声の方に目を遣ると、

 校庭に現れたのは、体育館裏で昼寝をしていた、時城コータだった。

 目を覚まして、今頃『状況』に気付いたらしい。


「コータ? ばか! 危ないからこっちくんなー!」

 必死でコータに叫ぶリュウジだったが、


「いや……そんなこと言ったって! お前食われかけてんじゃん! まってろ!!」

 コータは背中にしょっていた、パンパンのリュックを地面におろすと、

 

 ずぶり。

 リュックサックのその中に、両手を突っ込んで、こう叫んだのだ。


適合アダプト! 」


 ガチャガチャガチャッ!

 なんということだ。

 リュウジは、我が目を覆いたくなった。

 リュックの中から現れた奇怪な鉄の塊が、コータの両腕からものすごいスピードで展開しながら、赤銅色の装甲板と化して、コータの体を包んでいく。


 おお。今校庭に立っているのは、リュウジも漫画でよく見知ったスーパーヒーローだった。

 100kgの巨体を、パッツンパッツンの金属スーツで覆った、『メタルマン』だったのだ。


「まってろリュウジ! いま助けるからな!!」

「やめろ~~! 余計なことすんな~~!」

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